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異常ではなく自然なのか

泉中学校北西部を流れる女郎川=田原市江比間町で
泉中学校北西部を流れる女郎川=田原市江比間町で

気候変動ルポ

 今、自然が不自然な様相を呈している。9月9日、千葉県千葉市に台風15号が上陸。その後も立て続けに19、21号が列島を襲った。今この地球に何が起きているのか、私たちにできることは何か。
 10月12日午後3時、グラウンドが冠水した田原市泉中学校近くに住む内田さん夫妻は、恐怖におののいていた。「水がみるみる迫って来るんです。恐怖感がすごかった」
 台風19号がもたらした大雨により自宅近くの女郎川が氾濫。同夫妻は「川幅の狭い女郎川と新堀川がぶつかり、女郎川の水が逆流してあふれ出てしまう。2つの川が交わる場所付近に家があるため、とても危険。玄関のドアを開けると庭が湖になっていた。いつの間にか水位が上がっていた」
 また、自宅から南東約10㍍地点に立つ高圧送電用の鉄塔について「ゴルフ場の鉄骨で家が押しつぶされた千葉の映像を見て、自宅がこんなことになったらどうしようと不安になった。電力会社に問い合わせたものの、『塔が一般宅へ倒れた場合の補償制度はありません』とあしらわれた」と話す。
 「1階の家具や庭に置いていた発電機もすべて2階へ移動させた。家の中への浸水はなかったが、台風のたびに作業が大変。昨年は車1台と室外機が水没してしまった」。
 さらに河川管理について「新堀川は県の管轄だが、女郎川は市の管轄。連携がうまくいっていないのでは。今回起きた女郎川の氾濫も川底に泥やごみがたまっていたことが原因だと思う。行政には定期的に堆積物をすくってほしい」と訴えた。
 女郎川を管理する田原市建設部維持管理課は「女郎川はここ数十年、大雨による氾濫が相次いでいるため、川をもっと深く掘るなどの改良が必要かもしれない。来期は河川整備や維持管理に今より多くの予算を割くことができれば良いが、なかなか厳しい」。お茶を濁している印象だ。
 さらに同課は「週に3回、道路をパトロールするついでに河川の状態も見ている」と当初は本社の取材に応じたが、その後の取材でパトロールを行っていないことが判明。「ずさんな管理体制」との批判は免れない。

温暖化の食い止め

 国立環境研究所地球環境センターの江守正多・副センター長は、現在の地球環境について「温暖化によって日本列島南の海域を中心に、1981~2010年の平均気温に比べて2~3度海水温が上昇している。これにより台風の燃料となる水蒸気量が増えることで、今回の台風も勢力を強めて列島に上陸した」と分析する。
 江守氏は「国連が地球全体の気温を今よりも0・5~1度の上昇に抑えようと、2050年までに新エネルギーへの転換を進め、CO2排出量をゼロにする目標を掲げているが、日本の目標は80%減。世界に後れをとっている。また、火力発電所を建設するなど世界の流れと逆行する動きもある」と指摘した。
 「長期的傾向として、今後もより強い大雨や熱波が予想される。国は、再生エネルギーのコスト削減や送電網の整備、太陽光・風力発電の変動制御技術の開発支援を急いでほしい」と訴える。
 また同氏は災害対策について「国は、防波堤などの防災インフラ整備にもっと予算を割くべき」とした上で「私たちも備蓄品の常備など1人ひとりが常に災害を意識して行動する必要がある」と語った。
 「千葉の台風被害をきっかけに『温暖化を止めなければ』と国民全員に意識してほしい。選挙で候補者に気候変動についての意見を求めたり、再生エネルギーを活用する企業の商品を買う、飛行機の利用を控えるなどできることはたくさんある」と呼び掛けた。

未来ではなく今

 全日本空輸(ANA)国際線旅客機の操縦桿を握る男性副操縦士(30)は、飛行機が大量のCO2を排出することについて「欧米では『飛び恥』という言葉が流行るほど飛行機移動は敬遠され、船や電車での移動が推奨されている」と話す。
 「電気飛行機の実用化はまだまだ先。まずは車と同じようにハイブリッドからでしょう」
 衆院環境委員会に所属する国民民主党の関健一郎衆院議員(比例東海)も「地球温暖化が災害の激甚化につながっている。環境問題はもう未来の話ではない。私たちの明日の暮らしに関わる」と警笛を鳴らしている。
 「気候変動は子どもたちの権利の危機だ」―。
 これは9月23日、米ニューヨーク国連本部で開かれた気候変動サミットでスウェーデン人のグレタ・トゥーンベリさん(16)ら12カ国の少年少女たちの切なる訴えだ。
 新エネルギーへの転換。それにはまず「環境破壊は子どもの人権破壊だ」と私たちの心構えを転換することからスタートすべきではないだろうか。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は同サミットでこう述べている。「時間がなくなりつつある。しかし、まだ手遅れではない」。自然を異常にしたのは、私たちだ。
(木村裕貴)

気候変動ルポ

 今、自然が不自然な様相を呈している。9月9日、千葉県千葉市に台風15号が上陸。その後も立て続けに19、21号が列島を襲った。今この地球に何が起きているのか、私たちにできることは何か。
 10月12日午後3時、グラウンドが冠水した田原市泉中学校近くに住む内田さん夫妻は、恐怖におののいていた。「水がみるみる迫って来るんです。恐怖感がすごかった」
 台風19号がもたらした大雨により自宅近くの女郎川が氾濫。同夫妻は「川幅の狭い女郎川と新堀川がぶつかり、女郎川の水が逆流してあふれ出てしまう。2つの川が交わる場所付近に家があるため、とても危険。玄関のドアを開けると庭が湖になっていた。いつの間にか水位が上がっていた」
 また、自宅から南東約10㍍地点に立つ高圧送電用の鉄塔について「ゴルフ場の鉄骨で家が押しつぶされた千葉の映像を見て、自宅がこんなことになったらどうしようと不安になった。電力会社に問い合わせたものの、『塔が一般宅へ倒れた場合の補償制度はありません』とあしらわれた」と話す。
 「1階の家具や庭に置いていた発電機もすべて2階へ移動させた。家の中への浸水はなかったが、台風のたびに作業が大変。昨年は車1台と室外機が水没してしまった」。
 さらに河川管理について「新堀川は県の管轄だが、女郎川は市の管轄。連携がうまくいっていないのでは。今回起きた女郎川の氾濫も川底に泥やごみがたまっていたことが原因だと思う。行政には定期的に堆積物をすくってほしい」と訴えた。
 女郎川を管理する田原市建設部維持管理課は「女郎川はここ数十年、大雨による氾濫が相次いでいるため、川をもっと深く掘るなどの改良が必要かもしれない。来期は河川整備や維持管理に今より多くの予算を割くことができれば良いが、なかなか厳しい」。お茶を濁している印象だ。
 さらに同課は「週に3回、道路をパトロールするついでに河川の状態も見ている」と当初は本社の取材に応じたが、その後の取材でパトロールを行っていないことが判明。「ずさんな管理体制」との批判は免れない。

温暖化の食い止め

 国立環境研究所地球環境センターの江守正多・副センター長は、現在の地球環境について「温暖化によって日本列島南の海域を中心に、1981~2010年の平均気温に比べて2~3度海水温が上昇している。これにより台風の燃料となる水蒸気量が増えることで、今回の台風も勢力を強めて列島に上陸した」と分析する。
 江守氏は「国連が地球全体の気温を今よりも0・5~1度の上昇に抑えようと、2050年までに新エネルギーへの転換を進め、CO2排出量をゼロにする目標を掲げているが、日本の目標は80%減。世界に後れをとっている。また、火力発電所を建設するなど世界の流れと逆行する動きもある」と指摘した。
 「長期的傾向として、今後もより強い大雨や熱波が予想される。国は、再生エネルギーのコスト削減や送電網の整備、太陽光・風力発電の変動制御技術の開発支援を急いでほしい」と訴える。
 また同氏は災害対策について「国は、防波堤などの防災インフラ整備にもっと予算を割くべき」とした上で「私たちも備蓄品の常備など1人ひとりが常に災害を意識して行動する必要がある」と語った。
 「千葉の台風被害をきっかけに『温暖化を止めなければ』と国民全員に意識してほしい。選挙で候補者に気候変動についての意見を求めたり、再生エネルギーを活用する企業の商品を買う、飛行機の利用を控えるなどできることはたくさんある」と呼び掛けた。

未来ではなく今

 全日本空輸(ANA)国際線旅客機の操縦桿を握る男性副操縦士(30)は、飛行機が大量のCO2を排出することについて「欧米では『飛び恥』という言葉が流行るほど飛行機移動は敬遠され、船や電車での移動が推奨されている」と話す。
 「電気飛行機の実用化はまだまだ先。まずは車と同じようにハイブリッドからでしょう」
 衆院環境委員会に所属する国民民主党の関健一郎衆院議員(比例東海)も「地球温暖化が災害の激甚化につながっている。環境問題はもう未来の話ではない。私たちの明日の暮らしに関わる」と警笛を鳴らしている。
 「気候変動は子どもたちの権利の危機だ」―。
 これは9月23日、米ニューヨーク国連本部で開かれた気候変動サミットでスウェーデン人のグレタ・トゥーンベリさん(16)ら12カ国の少年少女たちの切なる訴えだ。
 新エネルギーへの転換。それにはまず「環境破壊は子どもの人権破壊だ」と私たちの心構えを転換することからスタートすべきではないだろうか。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は同サミットでこう述べている。「時間がなくなりつつある。しかし、まだ手遅れではない」。自然を異常にしたのは、私たちだ。
(木村裕貴)

泉中学校北西部を流れる女郎川=田原市江比間町で
泉中学校北西部を流れる女郎川=田原市江比間町で

カテゴリー:社会・経済

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