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「市民のために」素早く対応

加藤さん㊨と榊原さん
加藤さん㊨と榊原さん

新型コロナウイルス感染防止を訴える豊橋市長の動画メッセージ。聴覚障害者団体の要望を受けた市が素早く対応し、手話をつけたことを本紙は何度か報じたが、「市民のために」という高い職員意識と「部際を超えた協力関係」「恵まれた人材、機材」がそろって初めて実現したことが分かってきた。関係者の話を聞いた。

 動画メッセージで、ワイプ(小窓のような枠)で手話をしているのは、障害福祉課の加藤真紀子さん(40)と榊原いづみさん(34)。加藤さんは4年目、榊原さんは6年目の会計年度任用職員だ。
 最初の今月7日の動画に登場した加藤さんは、約20年前に手話を学び始め、当時あった手話奉仕員として聴覚障害者と関わりを続けてきた。市に採用された現在は障害福祉課の窓口で障害者の相談に乗り、書類申請手続きのサポートなどをしている。他課の窓口まで付き添うことも多い。
 広報広聴課の依頼を受けて、カメラの前に立ったのは今月7日。事前に収録した市長の動画メッセージを再生しながら、手話通訳をした。
 普段は窓口で対面の手話をしているが、これまでも講演で、聴衆を前に手話通訳をした経験がある。「とまどいは無かった」と話すが、気をつけた点があった。ワイプ画面に収まるよう、手話の身振りを意識的に小さくしたのだ。また、健常者は耳慣れた「緊急事態宣言」「3密」などの言葉は、事前に県の手話通訳者の表現を確認し、同じ表現を心がけた。
 立ち会った広報広聴課職員は「市長の動画を1度見て、2回目の再生で手話通訳の収録が終わった。早かった」と驚く。本来は事前準備が必要だが、突然の収録で十分な時間が取れない面があった。加藤さんは「動画を見ながら、体の向きやスピードが適切だったかどうかを振り返っている」と話した。
 コロナ禍で、多い日は20人の聴覚障害者が訪れる。健常者は「3密」を避けて自宅から電話すればいいが、それができない。各種助成金の申請手続きは複雑だ。休業協力を要請された理美容業界には聴覚障害者がおり、要請内容や申請方法など、さまざまな質問がある。「申請開始前のため、今後は書類作成相談の来庁が増えると思います」と加藤さん。
 今は、一律10万円の特別定額給付金の問い合わせが多い。これからは申請書類が届き始めるので、窓口に来る人が増えると予想している。ただ、加藤さんは「新制度が始まる時はいつも同じです。コロナで大変だけれど、スタンスは基本的に変わらない。『分かりにくいことを、分かりやすく』をこれからも続けます」と話していた。

 一方、広報広聴課の対応も素早かった。
 聴覚障害者団体の手話の要望があったのは先月16日。直後に字幕をつけたのだが、求めに応じて手話を入れられるかどうかの協議を障害福祉課と続けていた。大型連休が目前に迫っていた。
 東愛知新聞が「あなたの声が、見えない」と題してコロナ禍の聴覚障害者問題を取り上げたのが今月5、6の両日朝刊。連休明けの7日、緊急事態宣言の延長に関する市長メッセージ動画が収録されることになった。その日午前、広報広聴課が障害福祉課に問い合わせ、調整の中で加藤さんが対応することになり、収録の上、その日のうちに手話付き動画が公開された。
 翌日、聴覚障害者団体が手話のお礼に来た。その際、ワイプ画面の大きさが話題になった。スマートフォンで再生するには小さい。そこで、動画制作のできる主査に声をかけると、対応できるという。
 次回の12日の臨時記者会見の動画は手話通訳をする加藤さんの姿が大きくなり、さらに見やすくなった。
 ちょっとした工夫があった。従来は市長が中央に大きく映っている動画だった。だが、このままワイプ画面を大きくすると手話の部分がはみ出してしまう。
 そこで、15日からは市長を意図的に中央からずらして撮影、スペースを作ってワイプを入れ込んだのだった。ちょっと見ただけでは分からない機転だ。
 広報広聴課は「機材にも人にも恵まれ、要望に応えられる環境にあったことも幸いした。これからも分かりやすい情報発信を心がけたい」と話している。
(山田一晶)

新型コロナウイルス感染防止を訴える豊橋市長の動画メッセージ。聴覚障害者団体の要望を受けた市が素早く対応し、手話をつけたことを本紙は何度か報じたが、「市民のために」という高い職員意識と「部際を超えた協力関係」「恵まれた人材、機材」がそろって初めて実現したことが分かってきた。関係者の話を聞いた。

 動画メッセージで、ワイプ(小窓のような枠)で手話をしているのは、障害福祉課の加藤真紀子さん(40)と榊原いづみさん(34)。加藤さんは4年目、榊原さんは6年目の会計年度任用職員だ。
 最初の今月7日の動画に登場した加藤さんは、約20年前に手話を学び始め、当時あった手話奉仕員として聴覚障害者と関わりを続けてきた。市に採用された現在は障害福祉課の窓口で障害者の相談に乗り、書類申請手続きのサポートなどをしている。他課の窓口まで付き添うことも多い。
 広報広聴課の依頼を受けて、カメラの前に立ったのは今月7日。事前に収録した市長の動画メッセージを再生しながら、手話通訳をした。
 普段は窓口で対面の手話をしているが、これまでも講演で、聴衆を前に手話通訳をした経験がある。「とまどいは無かった」と話すが、気をつけた点があった。ワイプ画面に収まるよう、手話の身振りを意識的に小さくしたのだ。また、健常者は耳慣れた「緊急事態宣言」「3密」などの言葉は、事前に県の手話通訳者の表現を確認し、同じ表現を心がけた。
 立ち会った広報広聴課職員は「市長の動画を1度見て、2回目の再生で手話通訳の収録が終わった。早かった」と驚く。本来は事前準備が必要だが、突然の収録で十分な時間が取れない面があった。加藤さんは「動画を見ながら、体の向きやスピードが適切だったかどうかを振り返っている」と話した。
 コロナ禍で、多い日は20人の聴覚障害者が訪れる。健常者は「3密」を避けて自宅から電話すればいいが、それができない。各種助成金の申請手続きは複雑だ。休業協力を要請された理美容業界には聴覚障害者がおり、要請内容や申請方法など、さまざまな質問がある。「申請開始前のため、今後は書類作成相談の来庁が増えると思います」と加藤さん。
 今は、一律10万円の特別定額給付金の問い合わせが多い。これからは申請書類が届き始めるので、窓口に来る人が増えると予想している。ただ、加藤さんは「新制度が始まる時はいつも同じです。コロナで大変だけれど、スタンスは基本的に変わらない。『分かりにくいことを、分かりやすく』をこれからも続けます」と話していた。

 一方、広報広聴課の対応も素早かった。
 聴覚障害者団体の手話の要望があったのは先月16日。直後に字幕をつけたのだが、求めに応じて手話を入れられるかどうかの協議を障害福祉課と続けていた。大型連休が目前に迫っていた。
 東愛知新聞が「あなたの声が、見えない」と題してコロナ禍の聴覚障害者問題を取り上げたのが今月5、6の両日朝刊。連休明けの7日、緊急事態宣言の延長に関する市長メッセージ動画が収録されることになった。その日午前、広報広聴課が障害福祉課に問い合わせ、調整の中で加藤さんが対応することになり、収録の上、その日のうちに手話付き動画が公開された。
 翌日、聴覚障害者団体が手話のお礼に来た。その際、ワイプ画面の大きさが話題になった。スマートフォンで再生するには小さい。そこで、動画制作のできる主査に声をかけると、対応できるという。
 次回の12日の臨時記者会見の動画は手話通訳をする加藤さんの姿が大きくなり、さらに見やすくなった。
 ちょっとした工夫があった。従来は市長が中央に大きく映っている動画だった。だが、このままワイプ画面を大きくすると手話の部分がはみ出してしまう。
 そこで、15日からは市長を意図的に中央からずらして撮影、スペースを作ってワイプを入れ込んだのだった。ちょっと見ただけでは分からない機転だ。
 広報広聴課は「機材にも人にも恵まれ、要望に応えられる環境にあったことも幸いした。これからも分かりやすい情報発信を心がけたい」と話している。
(山田一晶)

加藤さん㊨と榊原さん
加藤さん㊨と榊原さん

カテゴリー:社会・経済 / 政治・行政

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