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「触れない」「密が分からない」コロナ禍の視覚障害者

柘植康守豊視協会長=さくらピアで
柘植康守豊視協会長=さくらピアで
視覚障害者就労継続支援施設「陸」
視覚障害者就労継続支援施設「陸」

 東愛知新聞社はこれまで、新型コロナウイルス禍に生きる聴覚障害者、肢体不自由児者らの生活や苦労を報じてきた。今回は、視覚に障害のある人、彼らを支える人々にスポットを当てた。

 豊橋視覚障害者福祉協会(豊視協=ほうしきょう)の柘植康守会長(57)にコロナの時の話を聞いた。柘植会長は20代前半に病気で視覚障害となった。現在は、市内のデイサービスでマッサージなどをしている。ウイルス感染拡大防止のため、柘植さんが所属する団体や、県の会議などは軒並み中止になった。空いた時間はヘルパーと一緒に散歩したりするなどしていたという。「緊急事態宣言中は公共交通機関がガラガラで、逆に満員で押されたりする怖さがなかった」と話す柘植さん。
 しかし、エスカレーターの手すりなどは持つことをちゅうちょし、常にアルコールを含んだウエットティッシュを携帯して拭くようにしているほか、マッサージの際も「密」にならないよう気をつけているそうだ。
 一方、「ワクチンが出るまでは何の安心もできません。もちろん遠出しません」と話すのは、豊橋市三ノ輪町本興寺の視覚障害者就労継続支援施設「陸」を利用する市内の50代女性だ。NPO法人「てのひら」が運営する。
 陸は30~80代の全盲や弱視の計31人が利用している。法人代表で施設長を務める大石政和さんによると、コロナ前は1日あたり19・5人の利用だったが、4~5月は同16人の利用に。しばらく自粛していた人が5人いた。
 彼らも6月からは利用を始めたが、コロナの影響でバスの運行時間が変わり、乗り継ぎができず利用が困難になってしまった気の毒な人もいるという。
 視覚障害者は情報を得る手段として「触る」ことが重要だ。施設内の移動時も、手すりや壁を伝って歩く。みんなが手指消毒を徹底しているとはいえ、スタッフは日頃の業務に加え、導線などの消毒が日課に加わった。
 毎月、誕生会と銘打って実施していた外食も4月からは取りやめ、テークアウトに変更した。また、気軽に買い物ができず、マスクが手に入らない人もいたことから、職員が手作りで対応したという。
 「利用者からは『買い物をする際、触って確認がしたいけれど、周囲に気兼ねして触れない』という話を聞きます」と大石施設長。視覚障害者にとって必要なヘルパーによる同行援護も、コロナの影響で事業所によっては中止してしまったところもあり、利用者を困らせたという。
 陸は、利用者が箱の組み立てや輪ゴムの袋詰めといった下請けの作業に励んでいる。作業時に利用者がテーブルに着く場合も、「密」にならないよう職員が気を配っている。そんな下請け作業にもコロナの影響が。「数社から仕事を受けているが、やっぱり減りました。うちはまだ良いが、もっと大変な事業所もあるようです」と教えてくれた。
 開所間もない9年前から陸に通う50代女性。「最初にニュースを聞いた時は『怖いな』と思いました。見えないから手すりや壁に触ることも多く、手を無意識に顔に持っていかないよう神経を使いました。週数回バスに乗る必要があるので、除菌のグッズを持ち歩いています」という。特に気になることとして「バスなどでは『密』にならないよう、空いている席に座りたい。でも見えないので空席が多い場所が分からない。知らずに多くの人と接近して座っていたらと考えると、怖くて仕方ない」と話す。
 「施設を社会的に認知してもらうため、開かれたものにしていきたいが、いまだ閉ざされたまま。早く普通の生活に戻り、広く地域に活動をアピールできるようになれば」と大石施設長。

サポートするボランティア「密着は当たり前」

 彼らをサポートするボランティアにも聞いてみた。外出時の支援などをする市内の視覚障害者ガイドヘルプ「かるがも」の加藤進さんは「ガイドをするんだから密着するのは当たり前」と言う。除菌や「3密」防止、マスク着用など、細心の注意を払うものの、視覚障害者のサポートには文字通り手を差し伸べないわけにはいかないのだ。しかし、正対して話をしないようにしたり、ウエットティッシュを携帯したりと注意は怠らない。「コロナで自粛生活の中、ウオーキングがしたい、外の空気が吸いたいという依頼はある。口数を減らした方が良いのかもしれないが、やっぱりお話をしながらガイドしたいよね」と利用者を慮る。
 柘植会長が副会長を務める「ビギン(東三河視覚障害者自立支援協会)」会員は「会の白杖講習や料理講習などは中止になってしまいました。視覚障害の人たちの中では、自分たちがコロナに感染したらどうしようというメールが回っていたようです」と皆の不安を教えてくれた。
 前述の50代女性の趣味は観劇。音楽や雰囲気、視覚以外から伝わる臨場感を楽しんでいる。しかし、せっかく買った東京での公演チケットを無駄にした。コロナ感染が爆発的になる前の2月末のことだ。友人は大丈夫だからと誘ってきたが、断固として断った。「後悔はしていません。ワクチンができたら観劇に行きたい」。
 早く彼女が気軽に移動できる日々になればと願う。
【田中博子】

 東愛知新聞社はこれまで、新型コロナウイルス禍に生きる聴覚障害者、肢体不自由児者らの生活や苦労を報じてきた。今回は、視覚に障害のある人、彼らを支える人々にスポットを当てた。

 豊橋視覚障害者福祉協会(豊視協=ほうしきょう)の柘植康守会長(57)にコロナの時の話を聞いた。柘植会長は20代前半に病気で視覚障害となった。現在は、市内のデイサービスでマッサージなどをしている。ウイルス感染拡大防止のため、柘植さんが所属する団体や、県の会議などは軒並み中止になった。空いた時間はヘルパーと一緒に散歩したりするなどしていたという。「緊急事態宣言中は公共交通機関がガラガラで、逆に満員で押されたりする怖さがなかった」と話す柘植さん。
 しかし、エスカレーターの手すりなどは持つことをちゅうちょし、常にアルコールを含んだウエットティッシュを携帯して拭くようにしているほか、マッサージの際も「密」にならないよう気をつけているそうだ。
 一方、「ワクチンが出るまでは何の安心もできません。もちろん遠出しません」と話すのは、豊橋市三ノ輪町本興寺の視覚障害者就労継続支援施設「陸」を利用する市内の50代女性だ。NPO法人「てのひら」が運営する。
 陸は30~80代の全盲や弱視の計31人が利用している。法人代表で施設長を務める大石政和さんによると、コロナ前は1日あたり19・5人の利用だったが、4~5月は同16人の利用に。しばらく自粛していた人が5人いた。
 彼らも6月からは利用を始めたが、コロナの影響でバスの運行時間が変わり、乗り継ぎができず利用が困難になってしまった気の毒な人もいるという。
 視覚障害者は情報を得る手段として「触る」ことが重要だ。施設内の移動時も、手すりや壁を伝って歩く。みんなが手指消毒を徹底しているとはいえ、スタッフは日頃の業務に加え、導線などの消毒が日課に加わった。
 毎月、誕生会と銘打って実施していた外食も4月からは取りやめ、テークアウトに変更した。また、気軽に買い物ができず、マスクが手に入らない人もいたことから、職員が手作りで対応したという。
 「利用者からは『買い物をする際、触って確認がしたいけれど、周囲に気兼ねして触れない』という話を聞きます」と大石施設長。視覚障害者にとって必要なヘルパーによる同行援護も、コロナの影響で事業所によっては中止してしまったところもあり、利用者を困らせたという。
 陸は、利用者が箱の組み立てや輪ゴムの袋詰めといった下請けの作業に励んでいる。作業時に利用者がテーブルに着く場合も、「密」にならないよう職員が気を配っている。そんな下請け作業にもコロナの影響が。「数社から仕事を受けているが、やっぱり減りました。うちはまだ良いが、もっと大変な事業所もあるようです」と教えてくれた。
 開所間もない9年前から陸に通う50代女性。「最初にニュースを聞いた時は『怖いな』と思いました。見えないから手すりや壁に触ることも多く、手を無意識に顔に持っていかないよう神経を使いました。週数回バスに乗る必要があるので、除菌のグッズを持ち歩いています」という。特に気になることとして「バスなどでは『密』にならないよう、空いている席に座りたい。でも見えないので空席が多い場所が分からない。知らずに多くの人と接近して座っていたらと考えると、怖くて仕方ない」と話す。
 「施設を社会的に認知してもらうため、開かれたものにしていきたいが、いまだ閉ざされたまま。早く普通の生活に戻り、広く地域に活動をアピールできるようになれば」と大石施設長。

サポートするボランティア「密着は当たり前」

 彼らをサポートするボランティアにも聞いてみた。外出時の支援などをする市内の視覚障害者ガイドヘルプ「かるがも」の加藤進さんは「ガイドをするんだから密着するのは当たり前」と言う。除菌や「3密」防止、マスク着用など、細心の注意を払うものの、視覚障害者のサポートには文字通り手を差し伸べないわけにはいかないのだ。しかし、正対して話をしないようにしたり、ウエットティッシュを携帯したりと注意は怠らない。「コロナで自粛生活の中、ウオーキングがしたい、外の空気が吸いたいという依頼はある。口数を減らした方が良いのかもしれないが、やっぱりお話をしながらガイドしたいよね」と利用者を慮る。
 柘植会長が副会長を務める「ビギン(東三河視覚障害者自立支援協会)」会員は「会の白杖講習や料理講習などは中止になってしまいました。視覚障害の人たちの中では、自分たちがコロナに感染したらどうしようというメールが回っていたようです」と皆の不安を教えてくれた。
 前述の50代女性の趣味は観劇。音楽や雰囲気、視覚以外から伝わる臨場感を楽しんでいる。しかし、せっかく買った東京での公演チケットを無駄にした。コロナ感染が爆発的になる前の2月末のことだ。友人は大丈夫だからと誘ってきたが、断固として断った。「後悔はしていません。ワクチンができたら観劇に行きたい」。
 早く彼女が気軽に移動できる日々になればと願う。
【田中博子】

柘植康守豊視協会長=さくらピアで
柘植康守豊視協会長=さくらピアで
視覚障害者就労継続支援施設「陸」
視覚障害者就労継続支援施設「陸」

カテゴリー:社会・経済

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