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幕末出版のナポレオン伝記を現代に

江戸時代のナポレオンの伝記を現代語に訳した冨安さん=東愛知新聞社で
江戸時代のナポレオンの伝記を現代語に訳した冨安さん=東愛知新聞社で
「那波列翁傳」の表紙
「那波列翁傳」の表紙
冨安さんが古書店で見つけた小関の翻訳本
冨安さんが古書店で見つけた小関の翻訳本

 ナポレオン・ボナパルト(1769~1821年)の伝記は、子ども向け、漫画まで含め膨大な数がある。豊橋市中岩田5の冨安廣次さん(73)は、江戸時代後期に出版された「活刷 那波列翁(ナポレオン)傳初編」の現代語訳版を出版した。今年はナポレオン没後200年。版元は同市柱三番町の「これから出版」。
 「那波列翁傳」は、医師で蘭学者でもあった小関三英(1787~1839年)がオランダ人のリンデンの著作を翻訳した。小関は渡辺崋山や高野長英と親交があり、蛮社の獄で2人が入牢したことを知り自害する。1830年頃に翻訳を始めたが、出版されたのは死後の57(安政4)年になってからだ。出版は華山の門人で田原藩士の松岡臺川。
 吉田松陰、坂本龍馬、西郷隆盛、福沢諭吉、渋沢栄一ら幕末の偉人らがこの本を読んだエピソードが残っている。2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」でも、隆盛役の鈴木亮平さんが本をめくるシーンがあるという。ただ、明治維新以降に小関の本を改めて出版した例はなく「164年ぶりに活字になった」と冨安さんは言う。
 冨安さんは愛知大学卒。卒業論文は「渡辺崋山の藩政改革」で、その頃に小関の本の存在を知った。本も間もなく古書店で入手したという。その後、大同工業大学の図書館に勤め1990年に退職した。「蘭学資料研究会」に入り、指導を受けた恩師らからこの本の執筆を勧められ出版にこぎつけた。
 江戸後期の思想家、頼山陽(1781~1832年)がナポレオンを詠んだ「佛郎(フランス)王歌」の原文と現代語訳に始まる。当時の版元による出版の経緯がつづられ、小関による伝記の翻訳が続く。コルシカ島に生まれ、フランス本国の陸軍幼年学校に入り、フランス革命を経て「ナポレオン戦争」が続き、1802年のローマ教皇との政教条約調印までが描かれている。現代訳だけでなく、ところどころに解説も織り込んだ。
 訳で苦労したのは、小関が使ったリンデンの原本がないために、出てくる片仮名が何を意味するのか不明な点だった。たとえば、「フレイヘイド」という言葉が出てくる。「自由」だが、小関は片仮名で書いていたため、意をくむのに時間がかった。
 また、原本の邦訳には154項目があったが、小関本では39項目が省かれていた。リンデンは「革命」や「共和国」「自由・平等・博愛」を具現化する英雄としてナポレオンを取り上げたが、幕藩体制下の日本に紹介するには時期尚早で、海防の重要性を説く本として紹介したのでは、と冨安さんはみている。
 316㌻2200円。大手書店やインターネット通販で購入できる。
【山田一晶】

 ナポレオン・ボナパルト(1769~1821年)の伝記は、子ども向け、漫画まで含め膨大な数がある。豊橋市中岩田5の冨安廣次さん(73)は、江戸時代後期に出版された「活刷 那波列翁(ナポレオン)傳初編」の現代語訳版を出版した。今年はナポレオン没後200年。版元は同市柱三番町の「これから出版」。
 「那波列翁傳」は、医師で蘭学者でもあった小関三英(1787~1839年)がオランダ人のリンデンの著作を翻訳した。小関は渡辺崋山や高野長英と親交があり、蛮社の獄で2人が入牢したことを知り自害する。1830年頃に翻訳を始めたが、出版されたのは死後の57(安政4)年になってからだ。出版は華山の門人で田原藩士の松岡臺川。
 吉田松陰、坂本龍馬、西郷隆盛、福沢諭吉、渋沢栄一ら幕末の偉人らがこの本を読んだエピソードが残っている。2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」でも、隆盛役の鈴木亮平さんが本をめくるシーンがあるという。ただ、明治維新以降に小関の本を改めて出版した例はなく「164年ぶりに活字になった」と冨安さんは言う。
 冨安さんは愛知大学卒。卒業論文は「渡辺崋山の藩政改革」で、その頃に小関の本の存在を知った。本も間もなく古書店で入手したという。その後、大同工業大学の図書館に勤め1990年に退職した。「蘭学資料研究会」に入り、指導を受けた恩師らからこの本の執筆を勧められ出版にこぎつけた。
 江戸後期の思想家、頼山陽(1781~1832年)がナポレオンを詠んだ「佛郎(フランス)王歌」の原文と現代語訳に始まる。当時の版元による出版の経緯がつづられ、小関による伝記の翻訳が続く。コルシカ島に生まれ、フランス本国の陸軍幼年学校に入り、フランス革命を経て「ナポレオン戦争」が続き、1802年のローマ教皇との政教条約調印までが描かれている。現代訳だけでなく、ところどころに解説も織り込んだ。
 訳で苦労したのは、小関が使ったリンデンの原本がないために、出てくる片仮名が何を意味するのか不明な点だった。たとえば、「フレイヘイド」という言葉が出てくる。「自由」だが、小関は片仮名で書いていたため、意をくむのに時間がかった。
 また、原本の邦訳には154項目があったが、小関本では39項目が省かれていた。リンデンは「革命」や「共和国」「自由・平等・博愛」を具現化する英雄としてナポレオンを取り上げたが、幕藩体制下の日本に紹介するには時期尚早で、海防の重要性を説く本として紹介したのでは、と冨安さんはみている。
 316㌻2200円。大手書店やインターネット通販で購入できる。
【山田一晶】

江戸時代のナポレオンの伝記を現代語に訳した冨安さん=東愛知新聞社で
江戸時代のナポレオンの伝記を現代語に訳した冨安さん=東愛知新聞社で
「那波列翁傳」の表紙
「那波列翁傳」の表紙
冨安さんが古書店で見つけた小関の翻訳本
冨安さんが古書店で見つけた小関の翻訳本

カテゴリー:社会・経済 / 地域・教育

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