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理想の暮らしへ試行錯誤 豊橋の中島さん

カテゴリー:特集

自宅敷地での野菜の栽培。なかなか難しいそうだ
自宅敷地での野菜の栽培。なかなか難しいそうだ

車の運転、食事、冷暖房。便利さには環境への負荷が必ず伴う。大切なことは、双方のバランスだ。豊橋市の自然の中で、環境への負荷をいかに減らしながら暮らせるか。理想の暮らしへの試行錯誤を繰り返すご家庭にお邪魔した。
 豊橋市南部。畑が見渡す限り広がる田園地帯の真ん中に住む中島ちあきさん(42)は、1歳の長男と夫の3人暮らし。
 中島さんは「子どものために、より安全・安心な暮らしを実現したい」と話す。
 自宅にお邪魔すると、昔ながらの土間と暖炉がある。ひどく寒い日だったが、暖炉が玄関とその周辺を温めてくれている。ちょうど訪問したタイミングで、1歳の長男のおやつになる「レモンケーキ」が暖炉から出てきて、香ばしい匂いが漂った。
 築75年の住宅をリフォームした。広い土間と、暖炉に解放感を感じる。南側にはふんだんに光を取り入れるよう窓が多く設置され、縁側も心地よく、ストーブがないことを忘れてしまう。
 「電気や石油、ガスのストーブは使わないので、寒くなると太陽が近い場所に、暑いと太陽と遠い場所に家の中の生活の中心が移っていくイメージです」。今のように寒い季節は南側に、夏の暑い季節は北側の部屋で睡眠をとるなど、生活の中心が移動していくという。「どうしても暑い時はエアコンを使うこともあります。絶対に何かをしないという、かたくななこだわりはありません」と言った。
 中島さんは県立豊橋西高校を卒業後、ダンスを学びに米国へ留学した。ただ、アトピー性皮膚炎を患っていて、症状が悪化するとダンスに集中できないことが多く、食や健康の大切さを痛感した。そこでダンスにいったん区切りをつけ、米国の大学で食について学んだ。
 日本に戻り、食材の本来の味や栄養を生かす「和食」の学びを深め、玄米と野菜をベースとし、乳製品を含む動物性食品を摂らない「マクロビオティック」に出会う。この生活を始めて13年になる。中島さんは「動物性たんぱく質や脂肪、甘いものを摂取するとアトピーが悪化することがあったが、それが無くなった。自分の肌が弱いので、自分の口に入るものについていろいろと考えるようになった」。
 そして、災害時でも変わらぬ暮らしを目指す。自宅敷地内の家庭菜園では現在、ニンジン、ルッコラ、ニンニク、大根、玉ねぎ、菜花、キャベツ、ジャガイモ、サツマイモの栽培に挑戦する。
 今後は、夫が幼少期に埋め立てられた井戸を使うことができないか、家族で検討している。月々の電気代は約2000円。電気を使わない完全自給自足実現への長い道のりは始まったばかりで、試行錯誤は続く。
 中島さんは人に押し付けず、自分もかたくなな姿勢をとることはしない。「友人のお宅に招いてもらって出していただく食事は、喜んで頂く。そういう主義なので食べない、という態度をとりません。ケーキやチョコレートが食べたくなれば食べます。電気代をゼロにしたいですが、冷蔵庫、冷凍庫は便利に使っています。ガソリンを使って車で移動していることも事実で、便利な暮らしを否定する気もない。ただ、自分ができることをしたいからやる。消費者の側がいろいろ学ぶべきことは多いと考えていますが、無理強いすることではないので共感できる仲間と学んでいきたい」

取材後記

 便利さを求める経済的合「理」性と自然の摂「理」。二つの「理」の間でのバランスが重要だ。どちらに偏りすぎても人間の日常を続けていくことはできない。この対極にある二つの「理」。現代日本は、経済的合理性に重心が行き過ぎていると思えてならない。欧米は、気候変動への取り組みに象徴されるように、自然の摂「理」の中に経済合「理」性を組み込もうとし続けている。それができるかどうか。今後100年、日本の経済成長に、そして地球への負荷軽減へのカギではないだろうか。
(本紙客員編集委員・関健一郎)

車の運転、食事、冷暖房。便利さには環境への負荷が必ず伴う。大切なことは、双方のバランスだ。豊橋市の自然の中で、環境への負荷をいかに減らしながら暮らせるか。理想の暮らしへの試行錯誤を繰り返すご家庭にお邪魔した。
 豊橋市南部。畑が見渡す限り広がる田園地帯の真ん中に住む中島ちあきさん(42)は、1歳の長男と夫の3人暮らし。
 中島さんは「子どものために、より安全・安心な暮らしを実現したい」と話す。
 自宅にお邪魔すると、昔ながらの土間と暖炉がある。ひどく寒い日だったが、暖炉が玄関とその周辺を温めてくれている。ちょうど訪問したタイミングで、1歳の長男のおやつになる「レモンケーキ」が暖炉から出てきて、香ばしい匂いが漂った。
 築75年の住宅をリフォームした。広い土間と、暖炉に解放感を感じる。南側にはふんだんに光を取り入れるよう窓が多く設置され、縁側も心地よく、ストーブがないことを忘れてしまう。
 「電気や石油、ガスのストーブは使わないので、寒くなると太陽が近い場所に、暑いと太陽と遠い場所に家の中の生活の中心が移っていくイメージです」。今のように寒い季節は南側に、夏の暑い季節は北側の部屋で睡眠をとるなど、生活の中心が移動していくという。「どうしても暑い時はエアコンを使うこともあります。絶対に何かをしないという、かたくななこだわりはありません」と言った。
 中島さんは県立豊橋西高校を卒業後、ダンスを学びに米国へ留学した。ただ、アトピー性皮膚炎を患っていて、症状が悪化するとダンスに集中できないことが多く、食や健康の大切さを痛感した。そこでダンスにいったん区切りをつけ、米国の大学で食について学んだ。
 日本に戻り、食材の本来の味や栄養を生かす「和食」の学びを深め、玄米と野菜をベースとし、乳製品を含む動物性食品を摂らない「マクロビオティック」に出会う。この生活を始めて13年になる。中島さんは「動物性たんぱく質や脂肪、甘いものを摂取するとアトピーが悪化することがあったが、それが無くなった。自分の肌が弱いので、自分の口に入るものについていろいろと考えるようになった」。
 そして、災害時でも変わらぬ暮らしを目指す。自宅敷地内の家庭菜園では現在、ニンジン、ルッコラ、ニンニク、大根、玉ねぎ、菜花、キャベツ、ジャガイモ、サツマイモの栽培に挑戦する。
 今後は、夫が幼少期に埋め立てられた井戸を使うことができないか、家族で検討している。月々の電気代は約2000円。電気を使わない完全自給自足実現への長い道のりは始まったばかりで、試行錯誤は続く。
 中島さんは人に押し付けず、自分もかたくなな姿勢をとることはしない。「友人のお宅に招いてもらって出していただく食事は、喜んで頂く。そういう主義なので食べない、という態度をとりません。ケーキやチョコレートが食べたくなれば食べます。電気代をゼロにしたいですが、冷蔵庫、冷凍庫は便利に使っています。ガソリンを使って車で移動していることも事実で、便利な暮らしを否定する気もない。ただ、自分ができることをしたいからやる。消費者の側がいろいろ学ぶべきことは多いと考えていますが、無理強いすることではないので共感できる仲間と学んでいきたい」

取材後記

 便利さを求める経済的合「理」性と自然の摂「理」。二つの「理」の間でのバランスが重要だ。どちらに偏りすぎても人間の日常を続けていくことはできない。この対極にある二つの「理」。現代日本は、経済的合理性に重心が行き過ぎていると思えてならない。欧米は、気候変動への取り組みに象徴されるように、自然の摂「理」の中に経済合「理」性を組み込もうとし続けている。それができるかどうか。今後100年、日本の経済成長に、そして地球への負荷軽減へのカギではないだろうか。
(本紙客員編集委員・関健一郎)

自宅敷地での野菜の栽培。なかなか難しいそうだ
自宅敷地での野菜の栽培。なかなか難しいそうだ

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