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29日の初戦で敗れ、整列する三谷水産ナイン
29日の初戦で敗れ、整列する三谷水産ナイン

高野連は思い出と夢へ配慮を

 夏の高校野球が幕を開けた。猛暑対策で、今年から2試合開催日の開始時間を1時間早める措置が取られたが、主催者ら大人たちは子どもの体調だけでなく、かけがえのない思い出を育むための配慮と柔軟な姿勢を見せるべきだ。
 活発した梅雨前線で、30日は広範囲で雨となった。愛知大会は豊橋市民球場を含む9会場で20試合が中止になり、このうち5試合が開始後途中ノーゲームという事態に。前日から記録的な大雨も予想されていただけに、主催者にはもっと早い段階の決断を期待したいが、雨雲の到来がもう1日早ければと思ってしまう出来事があった。
 29日、三谷水産は初戦で敗れた。主将ら3年生5人が5月から航海実習に出ており、今月4日に戻ってくる予定だった。ナインは初戦に勝ち、フルメンバーで2回戦に挑むと誓っていたが、それはかなわず、選手の涙は止まらなかった。「天気に頼りたくはない」が選手の気持ちだろうが、雨天順延で1週間後にずれ込んでいれば、全員で最後の夏を戦うことができただろう。
 県内唯一の水産高校として、漁業関係の道を志す若者が学ぶ蒲郡市の三谷水産。2カ月に及ぶ航海実習は貴重な技術と知識を得るだけでなく、広大な洋上で仲間と思い出を育む機会となるが、やはり野球部員である以上、グラウンドで築く思い出も尊重したい。学校側の事情を踏まえ、高野連は初戦の日程を2週目に設定する特例措置を取っても良かったのではないだろうか。困難を克服したり、他校の模範となるチームが選抜甲子園に出られる「21世紀枠」が存在するなら、そういった配慮もあっていい。
 三谷水産は過去、理不尽とも言える大きな壁にぶち当たった。2017年春、部員不足で新城東作手と合同チームとして地区予選に臨んだ。1次予選を突破したが、学校側や高野連の不手際で2次予選に出場できなかった。公には出場「辞退」とされ、部員らは愕然(がくぜん)とした。納得がいかない父母らは声を上げたが変わらず、気落ちして練習を止めてしまう部員もいた。
 同年夏、三谷水産と新城東作手は部員数を満たし、それぞれ単独で県大会に出場。くしくも同じ日の同じ会場で初戦を戦う巡り合わせとなった。逆境を経験したことで学び舎の垣根を超えた友情が生まれた。それでも、二度と起きてはならない問題だ。大人の事情で子どもの思い出や夢を奪ってはならない。
 今月4日に海から帰ってくる仲間に「合わせる顔がない」と涙した部員。最後まであきらめず全力プレーを貫いた姿勢を、笑顔でねぎらってくれるはずだ。
(由本裕貴)

高野連は思い出と夢へ配慮を

 夏の高校野球が幕を開けた。猛暑対策で、今年から2試合開催日の開始時間を1時間早める措置が取られたが、主催者ら大人たちは子どもの体調だけでなく、かけがえのない思い出を育むための配慮と柔軟な姿勢を見せるべきだ。
 活発した梅雨前線で、30日は広範囲で雨となった。愛知大会は豊橋市民球場を含む9会場で20試合が中止になり、このうち5試合が開始後途中ノーゲームという事態に。前日から記録的な大雨も予想されていただけに、主催者にはもっと早い段階の決断を期待したいが、雨雲の到来がもう1日早ければと思ってしまう出来事があった。
 29日、三谷水産は初戦で敗れた。主将ら3年生5人が5月から航海実習に出ており、今月4日に戻ってくる予定だった。ナインは初戦に勝ち、フルメンバーで2回戦に挑むと誓っていたが、それはかなわず、選手の涙は止まらなかった。「天気に頼りたくはない」が選手の気持ちだろうが、雨天順延で1週間後にずれ込んでいれば、全員で最後の夏を戦うことができただろう。
 県内唯一の水産高校として、漁業関係の道を志す若者が学ぶ蒲郡市の三谷水産。2カ月に及ぶ航海実習は貴重な技術と知識を得るだけでなく、広大な洋上で仲間と思い出を育む機会となるが、やはり野球部員である以上、グラウンドで築く思い出も尊重したい。学校側の事情を踏まえ、高野連は初戦の日程を2週目に設定する特例措置を取っても良かったのではないだろうか。困難を克服したり、他校の模範となるチームが選抜甲子園に出られる「21世紀枠」が存在するなら、そういった配慮もあっていい。
 三谷水産は過去、理不尽とも言える大きな壁にぶち当たった。2017年春、部員不足で新城東作手と合同チームとして地区予選に臨んだ。1次予選を突破したが、学校側や高野連の不手際で2次予選に出場できなかった。公には出場「辞退」とされ、部員らは愕然(がくぜん)とした。納得がいかない父母らは声を上げたが変わらず、気落ちして練習を止めてしまう部員もいた。
 同年夏、三谷水産と新城東作手は部員数を満たし、それぞれ単独で県大会に出場。くしくも同じ日の同じ会場で初戦を戦う巡り合わせとなった。逆境を経験したことで学び舎の垣根を超えた友情が生まれた。それでも、二度と起きてはならない問題だ。大人の事情で子どもの思い出や夢を奪ってはならない。
 今月4日に海から帰ってくる仲間に「合わせる顔がない」と涙した部員。最後まであきらめず全力プレーを貫いた姿勢を、笑顔でねぎらってくれるはずだ。
(由本裕貴)

29日の初戦で敗れ、整列する三谷水産ナイン
29日の初戦で敗れ、整列する三谷水産ナイン

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