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特殊詐欺ルポ㊤

カテゴリー:特集

高齢女性に電子マネー30万円分の購入をやめるよう説得した丸山さん=ファミリーマート豊川御油店で
高齢女性に電子マネー30万円分の購入をやめるよう説得した丸山さん=ファミリーマート豊川御油店で

東三川では1億2600万円被害

 1億2600万円―。昨年、東三河で起こった特殊詐欺の被害額だ。水面下の事件も含めれば、実際の被害額はこの倍以上だという。オレオレ詐欺、架空請求詐欺、還付金詐欺…。暴力団・半グレを中心とする特殊詐欺グループは、次々と新たな手口で市民の財産を奪っていく。最新の手口は?対策は?現場を追った。

 「どうなってんだ!」―。昨年9月10日午後7時20分、ファミリーマート豊川御油店のマネージャー・丸山伊吹さん(24)はバックヤードでクレームの電話を受けていた。
 「携帯代をおたくの店で払ったのに携帯会社から支払い催促が来ててー、このままだと携帯が止まっちゃうんだけどさー」「申し訳ありません。そうしましたら履歴を確認しますのでご来店になった日時を…」。その時、もう1人の勤務者であるアルバイトの清家いつきさん(19)が丸山さんに駆け寄り、小声で尋ねた。「電子マネーの返金ってどうやります?」
 「ちょっと待って」と丸山さん。電話を早く切り上げたい。「あ、兄に代わりますね」。電話口の声が変わる。「もしもし。今仕事から帰ってきてよく分からないんだけど、携帯代が払えてないの?」「申し訳ございません。確認しますので折り返しの連絡先を…」「おい、どうなってんだ!」。
 電話を終えてすぐに店内へ向かうと、レジの前には、胸の前で祈るようにガラケー携帯を握りしめた70代後半とおぼしき女性。電子マネー『ウェブ・マネー』の5万円カードを6枚買うところ、間違えて5000円カードを6枚買ってしまったという。
 「変だな」と直感した丸山さん。「お客さま、失礼ですがこれ何にお使いですか?」。女性は「携帯代をきょう夜7時までに払わないと携帯が止まってしまうから」とおどおどした様子で話す。
 「ウェブ・マネーは携帯代の支払いには使わないし、年配の方が30万円分も電子マネーを買うのはおかしい。携帯電話の通話がつながったままなのも不自然だった」と丸山さんは振り返る。
 購入をやめるよう女性を説得し、110番通報。駆けつけた警察官から「詐欺です」と言われ、女性はわれに返った。9日後、詐欺を未然に防いだ丸山さんは、齊木敏博豊川署長から感謝状を受け取った。
 「今思えば、あれは犯行グループからの電話だったのかもしれません」と丸山さん。当時、店舗は2人体制。長電話で1人の店員をバックヤードに足止めすれば、レジが手薄になる。列ができる。レジの店員は焦る。流れ作業化する。詐欺に気付くリスクは、減る。
 代行収納の履歴や防犯カメラ映像を調べても、携帯代を支払った形跡はなかった。後日、伝えられた連絡先へ折り返すと、受話器からは「お掛けになった電話番号は現在使われておりません」―。
 丸山さんは「事件をきっかけに、全ての店員へ特殊詐欺の未然防止について周知を図り、不自然な買い物客には遠まわしに用途を尋ねるようにした。新しい従業員が入るたびに、この経験を伝えていきたい」と笑顔で語った。バッジを付けない女性警察官はきょうも防犯の目を光らせる。
 豊川署は2012年から豊川信用金庫を「高齢者安心安全アドバイザー」に委嘱。ATMコーナーで来店客に声掛けを促すなど、金融機関や市内コンビニ店舗との連携を強化してきた。セブンイレブン豊川千歳通3丁目店は直近1年半で二度、詐欺を未然に防ぐなど成果を上げている。
 しかし、いまだ警察と犯人のいたちごっこは終わらない。次々と移り変わる犯行手口。次回はオレオレ詐欺の進化型、「カード狙い」の実態に迫る。
(木村裕貴)

東三川では1億2600万円被害

 1億2600万円―。昨年、東三河で起こった特殊詐欺の被害額だ。水面下の事件も含めれば、実際の被害額はこの倍以上だという。オレオレ詐欺、架空請求詐欺、還付金詐欺…。暴力団・半グレを中心とする特殊詐欺グループは、次々と新たな手口で市民の財産を奪っていく。最新の手口は?対策は?現場を追った。

 「どうなってんだ!」―。昨年9月10日午後7時20分、ファミリーマート豊川御油店のマネージャー・丸山伊吹さん(24)はバックヤードでクレームの電話を受けていた。
 「携帯代をおたくの店で払ったのに携帯会社から支払い催促が来ててー、このままだと携帯が止まっちゃうんだけどさー」「申し訳ありません。そうしましたら履歴を確認しますのでご来店になった日時を…」。その時、もう1人の勤務者であるアルバイトの清家いつきさん(19)が丸山さんに駆け寄り、小声で尋ねた。「電子マネーの返金ってどうやります?」
 「ちょっと待って」と丸山さん。電話を早く切り上げたい。「あ、兄に代わりますね」。電話口の声が変わる。「もしもし。今仕事から帰ってきてよく分からないんだけど、携帯代が払えてないの?」「申し訳ございません。確認しますので折り返しの連絡先を…」「おい、どうなってんだ!」。
 電話を終えてすぐに店内へ向かうと、レジの前には、胸の前で祈るようにガラケー携帯を握りしめた70代後半とおぼしき女性。電子マネー『ウェブ・マネー』の5万円カードを6枚買うところ、間違えて5000円カードを6枚買ってしまったという。
 「変だな」と直感した丸山さん。「お客さま、失礼ですがこれ何にお使いですか?」。女性は「携帯代をきょう夜7時までに払わないと携帯が止まってしまうから」とおどおどした様子で話す。
 「ウェブ・マネーは携帯代の支払いには使わないし、年配の方が30万円分も電子マネーを買うのはおかしい。携帯電話の通話がつながったままなのも不自然だった」と丸山さんは振り返る。
 購入をやめるよう女性を説得し、110番通報。駆けつけた警察官から「詐欺です」と言われ、女性はわれに返った。9日後、詐欺を未然に防いだ丸山さんは、齊木敏博豊川署長から感謝状を受け取った。
 「今思えば、あれは犯行グループからの電話だったのかもしれません」と丸山さん。当時、店舗は2人体制。長電話で1人の店員をバックヤードに足止めすれば、レジが手薄になる。列ができる。レジの店員は焦る。流れ作業化する。詐欺に気付くリスクは、減る。
 代行収納の履歴や防犯カメラ映像を調べても、携帯代を支払った形跡はなかった。後日、伝えられた連絡先へ折り返すと、受話器からは「お掛けになった電話番号は現在使われておりません」―。
 丸山さんは「事件をきっかけに、全ての店員へ特殊詐欺の未然防止について周知を図り、不自然な買い物客には遠まわしに用途を尋ねるようにした。新しい従業員が入るたびに、この経験を伝えていきたい」と笑顔で語った。バッジを付けない女性警察官はきょうも防犯の目を光らせる。
 豊川署は2012年から豊川信用金庫を「高齢者安心安全アドバイザー」に委嘱。ATMコーナーで来店客に声掛けを促すなど、金融機関や市内コンビニ店舗との連携を強化してきた。セブンイレブン豊川千歳通3丁目店は直近1年半で二度、詐欺を未然に防ぐなど成果を上げている。
 しかし、いまだ警察と犯人のいたちごっこは終わらない。次々と移り変わる犯行手口。次回はオレオレ詐欺の進化型、「カード狙い」の実態に迫る。
(木村裕貴)

高齢女性に電子マネー30万円分の購入をやめるよう説得した丸山さん=ファミリーマート豊川御油店で
高齢女性に電子マネー30万円分の購入をやめるよう説得した丸山さん=ファミリーマート豊川御油店で

カテゴリー:特集

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