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弱者の目線で動画配信

㊤当初の豊橋市長メッセージ(4月13日)㊥手話通訳が登場した豊橋市長メッセージ(今月7日)㊦手話通訳のワイプが大きくなった動画(今月15日)いずれもYouTubeより
㊤当初の豊橋市長メッセージ(4月13日)㊥手話通訳が登場した豊橋市長メッセージ(今月7日)㊦手話通訳のワイプが大きくなった動画(今月15日)いずれもYouTubeより
㊤即興で手話を使う前橋市長(4月24日)㊦メッセージ冒頭でマスクを外してみせた横須賀市長(今月7日)
㊤即興で手話を使う前橋市長(4月24日)㊦メッセージ冒頭でマスクを外してみせた横須賀市長(今月7日)

市長メッセージに手話通訳

 新型コロナウイルスに関する市長メッセージ動画に手話通訳がついているかどうかの本紙調査。災害時、一番身近な行政機関が、どれだけ人々、特に弱者に寄り添っているかを示す尺度にもなるのではないかと思う。
 手話通訳をつけていた22市の動画を閲覧していると、さまざまな工夫が見て取れる。
 まず驚いたのが群馬県前橋市。4月のコロナに関する記者会見動画で、手話通訳がワイプ(小窓のような枠)で登場するのだが、山本龍市長みずからも手話を使って市民に対し、ウイルスに警戒するよう呼びかけていた。特に「聴覚障害者向け」と題した動画ではなかったのも印象的だった。
 市の市政発信課によると、山本市長は手話ができるわけではないという。「会見前に突然、手話通訳士に『この言葉はどうやって表現するのだったかな』と聞いていた」と話す。アドリブだったのだ。きっかけは「普段はともかく、こういう事態だから手話通訳を入れよう」という流れになり、社会福祉協議会から手話通訳士を派遣してもらったのだという。
 豊橋市は本紙の報道後すぐ、障害者団体の要望に応えた。また、一度手話通訳をつけた後、ワイプをさらに大きくし、手話通訳者の姿が拡大するように工夫した。弱者の目線に立った素早い対応を評価したい。
 担当する市広報広聴課は取材に対し「手話をつけた際に、当事者からお礼の言葉を頂いた。そのやり取りの中で『もう少し、画面が大きければ』という声があった。確かにスマートフォンで見るには小さい。でも、これならすぐに改善できる、と画面を大きくした」と話している。
 また、今回の調査は、メッセージを語る市長のマスクにも注目した。聴覚障害者は、話者の口元を見て話す内容を理解している。
 そこで、登場する市長がマスクを着けているかどうかも調べたところ、手話通訳の有無にかかわらず、コロナ関連のメッセージ動画を配信していた47市長のうち、半数の市長が少なくとも1回以上、マスクを着けずに語りかけていた。手話通訳付き動画のある22市長の中でも半数がそうだった。前橋市長もマスクをしていなかった。
 マスク着用、非着用に何かの意図があったのかは分からない。実際、コロナ禍の初期、北海道の鈴木直道知事が、防災服にマスク姿で記者団の取材に応じた姿がテレビで流れ、危機感を持って陣頭指揮に当たる知事、という強い印象を与えたことが評判となった。
 その一方で、神奈川県横須賀市の上地克明市長らのように、動画の冒頭、話し始める直前にわざわざ着けていたマスクを外してみせる例があった。健常者にはなんでもない行為だが、耳の不自由な人がこの動きを見れば「自分たちに配慮したメッセージだ」と受け取るのは間違いないだろう。動画を編集した市の広報課は「市長の側から『マスクを外すシーンはカットしないように』と連絡があった。市長のこだわりがあったようだ」と話している。
 多くの記者が参加した記者会見でのやり取りを、そのまま市長メッセージ動画としている市もり、その場合はマスク着用の必要があったと思われる。ただ、スタジオや専用室で撮影しているなら、マスクは不要だったかもしれないし、フェースシールドを着ける方法もあったと思う。
 一方、手話動画が無いまでも、ルビ付きの字幕を入れた兵庫県姫路市、ピクトグラム(絵文字)入りの要約ワイプを挿入した大阪府寝屋川市など、さまざまな工夫をしている自治体があった。
 コロナ禍は自然災害と違って、各種インフラがそのまま残る形で人々にさまざまな影響を与えた。南海トラフ地震は必ず起きる。台風も超大型化が指摘されている。そんな時のことを考えよう。今回の事態は、必要な情報を求める人、特に立場の弱い人に、その内容を正しく伝えるにはどうすればいいかを行政が見直す契機になったのではないだろうか。
(山田一晶)

市長メッセージに手話通訳

 新型コロナウイルスに関する市長メッセージ動画に手話通訳がついているかどうかの本紙調査。災害時、一番身近な行政機関が、どれだけ人々、特に弱者に寄り添っているかを示す尺度にもなるのではないかと思う。
 手話通訳をつけていた22市の動画を閲覧していると、さまざまな工夫が見て取れる。
 まず驚いたのが群馬県前橋市。4月のコロナに関する記者会見動画で、手話通訳がワイプ(小窓のような枠)で登場するのだが、山本龍市長みずからも手話を使って市民に対し、ウイルスに警戒するよう呼びかけていた。特に「聴覚障害者向け」と題した動画ではなかったのも印象的だった。
 市の市政発信課によると、山本市長は手話ができるわけではないという。「会見前に突然、手話通訳士に『この言葉はどうやって表現するのだったかな』と聞いていた」と話す。アドリブだったのだ。きっかけは「普段はともかく、こういう事態だから手話通訳を入れよう」という流れになり、社会福祉協議会から手話通訳士を派遣してもらったのだという。
 豊橋市は本紙の報道後すぐ、障害者団体の要望に応えた。また、一度手話通訳をつけた後、ワイプをさらに大きくし、手話通訳者の姿が拡大するように工夫した。弱者の目線に立った素早い対応を評価したい。
 担当する市広報広聴課は取材に対し「手話をつけた際に、当事者からお礼の言葉を頂いた。そのやり取りの中で『もう少し、画面が大きければ』という声があった。確かにスマートフォンで見るには小さい。でも、これならすぐに改善できる、と画面を大きくした」と話している。
 また、今回の調査は、メッセージを語る市長のマスクにも注目した。聴覚障害者は、話者の口元を見て話す内容を理解している。
 そこで、登場する市長がマスクを着けているかどうかも調べたところ、手話通訳の有無にかかわらず、コロナ関連のメッセージ動画を配信していた47市長のうち、半数の市長が少なくとも1回以上、マスクを着けずに語りかけていた。手話通訳付き動画のある22市長の中でも半数がそうだった。前橋市長もマスクをしていなかった。
 マスク着用、非着用に何かの意図があったのかは分からない。実際、コロナ禍の初期、北海道の鈴木直道知事が、防災服にマスク姿で記者団の取材に応じた姿がテレビで流れ、危機感を持って陣頭指揮に当たる知事、という強い印象を与えたことが評判となった。
 その一方で、神奈川県横須賀市の上地克明市長らのように、動画の冒頭、話し始める直前にわざわざ着けていたマスクを外してみせる例があった。健常者にはなんでもない行為だが、耳の不自由な人がこの動きを見れば「自分たちに配慮したメッセージだ」と受け取るのは間違いないだろう。動画を編集した市の広報課は「市長の側から『マスクを外すシーンはカットしないように』と連絡があった。市長のこだわりがあったようだ」と話している。
 多くの記者が参加した記者会見でのやり取りを、そのまま市長メッセージ動画としている市もり、その場合はマスク着用の必要があったと思われる。ただ、スタジオや専用室で撮影しているなら、マスクは不要だったかもしれないし、フェースシールドを着ける方法もあったと思う。
 一方、手話動画が無いまでも、ルビ付きの字幕を入れた兵庫県姫路市、ピクトグラム(絵文字)入りの要約ワイプを挿入した大阪府寝屋川市など、さまざまな工夫をしている自治体があった。
 コロナ禍は自然災害と違って、各種インフラがそのまま残る形で人々にさまざまな影響を与えた。南海トラフ地震は必ず起きる。台風も超大型化が指摘されている。そんな時のことを考えよう。今回の事態は、必要な情報を求める人、特に立場の弱い人に、その内容を正しく伝えるにはどうすればいいかを行政が見直す契機になったのではないだろうか。
(山田一晶)

㊤当初の豊橋市長メッセージ(4月13日)㊥手話通訳が登場した豊橋市長メッセージ(今月7日)㊦手話通訳のワイプが大きくなった動画(今月15日)いずれもYouTubeより
㊤当初の豊橋市長メッセージ(4月13日)㊥手話通訳が登場した豊橋市長メッセージ(今月7日)㊦手話通訳のワイプが大きくなった動画(今月15日)いずれもYouTubeより
㊤即興で手話を使う前橋市長(4月24日)㊦メッセージ冒頭でマスクを外してみせた横須賀市長(今月7日)
㊤即興で手話を使う前橋市長(4月24日)㊦メッセージ冒頭でマスクを外してみせた横須賀市長(今月7日)

カテゴリー:社会・経済 / 政治・行政

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