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「78円の命」主人公の黒猫キキが旅立つ

シェルターで体調が回復した時期のキキ(提供)
シェルターで体調が回復した時期のキキ(提供)
昨年6月、倒れているところを保護された(同)
昨年6月、倒れているところを保護された(同)
キキに手を合わせる宮城谷さん=豊橋市斎場で
キキに手を合わせる宮城谷さん=豊橋市斎場で

豊橋市斎場でハーツのメンバーらら冥福祈る

 豊橋市内で22日午前、1匹の黒猫が息を引き取った。雌で名前はキキという。猫の殺処分問題を取り上げて絵本や道徳の教材にもなった「78円の命」の主人公だ。全国的に知られている。23日午後、動物福祉団体「命にやさしいまちづくり ハーツ」のメンバーが斎場に連れていき、火葬してもらった。
 絵本の原作は谷山千華さん。小学校6年生だった2012年「豊橋市小中学生話し方大会」でこの作文を朗読し最優秀賞作品に輝いた。
 作文は「近所に捨てネコがいる。そのネコは目がくりっとしていて、しっぽがくるっと曲がっている。かわいい声をあげていつも私についてくる。真っ黒なネコだったので、魔女の宅急便から『キキ』と勝手に名付けてかわいがった」と始まる。そしてキキが産んだ赤ちゃんが保健所に連れていかれる。「私」はインターネットで調べ、猫が殺処分されている現実を知る。
 タイトルは猫一匹の処分にかかる費用を指す。その後、キキが腹に包帯を巻いているのを「私」が見つけ、不妊手術が終わったことを知る。そして「今も近所には何匹かの捨てネコがいる。私はこのネコたちをかわいがってもいいのかどうか、ずっと悩んでいる」と結ばれている。
 感銘を受けたハーツの古橋幸子さんがブログで紹介したこともあり、インターネット上で強い共感を呼んだ。全国紙などが相次いで取り上げた。谷山さんにも取材があり、キキを抱く姿が紙面に載った。都内の写真家やデザイナーが猫の殺処分問題を考える「78円の命プロジェクト」をスタートさせ、クラウドファンディングによって資金を募り、16年には絵本になった。新型コロナウイルス禍の2020年には、女優の二階堂ふみさんがSNSで「78円の命」を朗読し、またニュースになった。
 絵本の中のキキが有名になり、全国に名前が広がる一方で、本物のキキが話題になることはなくなっていった。「78円の命」には「この先キキも赤ちゃんも捨てられずにすむという安心した気持ちと、○○さん家のネコになってしまったんだというさみしい気持ちとで複雑だった」とある。多くの人は、キキは飼い猫になったと思ったという。
 しかし昨年6月、事態が急変した。自転車通勤中の豊橋市内の男性が、路上で寝ている黒猫に気づいた。具合が悪そうだった。近所で餌をやっている女性に声をかけ、病院に運ぶと申し出たが「野良猫だから」と応じなかった。
 そこでインターネットに連絡先が書いてあったハーツに電話した。相談を受け、古橋さんが現場に出向いて猫を探した。すると、そこが谷山さんの自宅近所であることに気づいた。その日は猫は見つからなかったが2日後、谷山さんの家族から「玄関前でキキが倒れている。死にそうだ」と通報があり、メンバーの宮城谷伸江さんが駆けつけて保護した。
 宮城谷さんによると、黒い毛が赤茶けて毛羽立っており、屋外の生活ぶりがうかがえた。息が荒く、ぐったりしていた。最後を看取るつもりで許可を得て、動物病院に運んだ。そこでようやく「にゃあ」と鳴いたという。
 診断の結果、腎臓が悪くなっており、衰弱していた。右目が変色し、失明を心配させた。宮城谷さんは「キキが外で生活していたと知ってショックを受けた」と話す。
 入院は1カ月に及び、退院後はハーツの猫収容施設「シェルター」に入った。ボランティアが交代で週1回の点滴を続けた。「体調は一進一退だった」と宮城谷さん。具合の良い時は世話係の膝によじのぼって、ゴロゴロと喉を鳴らした。目薬を続けたおかげで、目もよくなったようだった。「運の強い猫だった」と宮城谷さんは言う。シェルターの人気ものになっていた。
 だが、今月になって容態が悪化。22日昼前、宮城谷さんに「虹の橋を渡りました」とメールが届いた。たまたま、世話係の交代の時間で、多くの人が息を引き取るのを見守ったという。
 同居のシェルターの猫のお別れを済ませた後、キキは花で埋め尽くされたひつぎ代わりの小さな段ボール箱に納められ、古橋さんと宮城谷さんによって豊橋市斎場に運ばれた。2人が焼香し、火葬された。
 宮城谷さんは孫が谷山さんと同級生で、その作文を初めて部外に紹介した経緯があった。いわばキキの最初と最期に関わった人でもある。「命の大切さを、あなたの代わりにみんなで継承していかなくては」と仲間にメッセージを書いた。古橋さんは「キキがその後どうなったのか、もっと注意していればよかった」と悔やむ。
 一方、谷山さんの家族もその日のうちに斎場を訪ねて焼香した。取材に「ハーツをはじめ、多くの人の世話になった。キキは幸せだったと思う」とコメントした。
【山田一晶】

豊橋市斎場でハーツのメンバーらら冥福祈る

 豊橋市内で22日午前、1匹の黒猫が息を引き取った。雌で名前はキキという。猫の殺処分問題を取り上げて絵本や道徳の教材にもなった「78円の命」の主人公だ。全国的に知られている。23日午後、動物福祉団体「命にやさしいまちづくり ハーツ」のメンバーが斎場に連れていき、火葬してもらった。
 絵本の原作は谷山千華さん。小学校6年生だった2012年「豊橋市小中学生話し方大会」でこの作文を朗読し最優秀賞作品に輝いた。
 作文は「近所に捨てネコがいる。そのネコは目がくりっとしていて、しっぽがくるっと曲がっている。かわいい声をあげていつも私についてくる。真っ黒なネコだったので、魔女の宅急便から『キキ』と勝手に名付けてかわいがった」と始まる。そしてキキが産んだ赤ちゃんが保健所に連れていかれる。「私」はインターネットで調べ、猫が殺処分されている現実を知る。
 タイトルは猫一匹の処分にかかる費用を指す。その後、キキが腹に包帯を巻いているのを「私」が見つけ、不妊手術が終わったことを知る。そして「今も近所には何匹かの捨てネコがいる。私はこのネコたちをかわいがってもいいのかどうか、ずっと悩んでいる」と結ばれている。
 感銘を受けたハーツの古橋幸子さんがブログで紹介したこともあり、インターネット上で強い共感を呼んだ。全国紙などが相次いで取り上げた。谷山さんにも取材があり、キキを抱く姿が紙面に載った。都内の写真家やデザイナーが猫の殺処分問題を考える「78円の命プロジェクト」をスタートさせ、クラウドファンディングによって資金を募り、16年には絵本になった。新型コロナウイルス禍の2020年には、女優の二階堂ふみさんがSNSで「78円の命」を朗読し、またニュースになった。
 絵本の中のキキが有名になり、全国に名前が広がる一方で、本物のキキが話題になることはなくなっていった。「78円の命」には「この先キキも赤ちゃんも捨てられずにすむという安心した気持ちと、○○さん家のネコになってしまったんだというさみしい気持ちとで複雑だった」とある。多くの人は、キキは飼い猫になったと思ったという。
 しかし昨年6月、事態が急変した。自転車通勤中の豊橋市内の男性が、路上で寝ている黒猫に気づいた。具合が悪そうだった。近所で餌をやっている女性に声をかけ、病院に運ぶと申し出たが「野良猫だから」と応じなかった。
 そこでインターネットに連絡先が書いてあったハーツに電話した。相談を受け、古橋さんが現場に出向いて猫を探した。すると、そこが谷山さんの自宅近所であることに気づいた。その日は猫は見つからなかったが2日後、谷山さんの家族から「玄関前でキキが倒れている。死にそうだ」と通報があり、メンバーの宮城谷伸江さんが駆けつけて保護した。
 宮城谷さんによると、黒い毛が赤茶けて毛羽立っており、屋外の生活ぶりがうかがえた。息が荒く、ぐったりしていた。最後を看取るつもりで許可を得て、動物病院に運んだ。そこでようやく「にゃあ」と鳴いたという。
 診断の結果、腎臓が悪くなっており、衰弱していた。右目が変色し、失明を心配させた。宮城谷さんは「キキが外で生活していたと知ってショックを受けた」と話す。
 入院は1カ月に及び、退院後はハーツの猫収容施設「シェルター」に入った。ボランティアが交代で週1回の点滴を続けた。「体調は一進一退だった」と宮城谷さん。具合の良い時は世話係の膝によじのぼって、ゴロゴロと喉を鳴らした。目薬を続けたおかげで、目もよくなったようだった。「運の強い猫だった」と宮城谷さんは言う。シェルターの人気ものになっていた。
 だが、今月になって容態が悪化。22日昼前、宮城谷さんに「虹の橋を渡りました」とメールが届いた。たまたま、世話係の交代の時間で、多くの人が息を引き取るのを見守ったという。
 同居のシェルターの猫のお別れを済ませた後、キキは花で埋め尽くされたひつぎ代わりの小さな段ボール箱に納められ、古橋さんと宮城谷さんによって豊橋市斎場に運ばれた。2人が焼香し、火葬された。
 宮城谷さんは孫が谷山さんと同級生で、その作文を初めて部外に紹介した経緯があった。いわばキキの最初と最期に関わった人でもある。「命の大切さを、あなたの代わりにみんなで継承していかなくては」と仲間にメッセージを書いた。古橋さんは「キキがその後どうなったのか、もっと注意していればよかった」と悔やむ。
 一方、谷山さんの家族もその日のうちに斎場を訪ねて焼香した。取材に「ハーツをはじめ、多くの人の世話になった。キキは幸せだったと思う」とコメントした。
【山田一晶】

シェルターで体調が回復した時期のキキ(提供)
シェルターで体調が回復した時期のキキ(提供)
昨年6月、倒れているところを保護された(同)
昨年6月、倒れているところを保護された(同)
キキに手を合わせる宮城谷さん=豊橋市斎場で
キキに手を合わせる宮城谷さん=豊橋市斎場で

カテゴリー:社会・経済

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