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東三河初、院外不妊・去勢手術による地域猫活動

農家にいた猫。餌を出すとどこからか集まってくる=2月(提供)
農家にいた猫。餌を出すとどこからか集まってくる=2月(提供)
公民館に設けられた手術室。夜遅くまで執刀が続いた(同)
公民館に設けられた手術室。夜遅くまで執刀が続いた(同)
新しい飼い主を待つ猫(同)
新しい飼い主を待つ猫(同)

田原で猫の「多頭飼育崩壊」

 渥美半島の先端に近い田原市の集落で、猫の「多頭飼育崩壊」が起きた。地域住民と市民団体、市や県が協力し、16~19日に約60匹の猫を捕獲。獣医が現場に臨時手術室を開設し、不妊・去勢手術のうえ、元に戻す地域猫活動に取り組んだ。医師が現地で手術するのは東三河では初の試みだ。関係者は「先進的な取り組みになるのでは」と評価している。

 現場は農業の男性の家。母屋2棟に加え、農作業小屋や温室がある。関係者によると、男性は猫を家の中で飼っていたが約2年に差し押さえを受けて家屋を手放さざるを得なくなった。
 1年の間は家に住むことを許されていたが、やがて本格的に立ち退きを求められた。別の家に身を寄せたが、猫は飼えない。そこで、飼い猫を外へ出し、夜に来て餌を与えていたという。このため、近所にいた飼い主のいない猫も集まるようになり、少なくとも30匹前後にまで増えた。よく起きる家屋内の異常繁殖ではないが、一種の多頭飼育崩壊といえる。
 一方、土地建物を入手した人は、残っていた農機具だけでなく、猫も引き取るように依頼した。このままでは殺処分される懸念も出ていた。
 2月になり、子どもが「猫がいっぱいいる場所」と話しているのを聞いた近所の人が、東三河地方で活動している市民団体「命にやさしいまちづくり ハーツ」のメンバーに相談した。聞き込みをすると、ふん尿被害などで猫たちは嫌われており「毒をまく」などと話す人もいたという。猫はどこかに隠れており、人が餌を置くと集まって食べにきていた。
 間もなく子猫が生まれ始めるシーズンのため、避妊・去勢手術は一刻の余裕もないと判断したハーツは、県動物愛護センター東三河支所、田原市環境課にも相談し、地域猫活動を進めることを決めた。行政は現地を視察した。曲折はあったが、県と市の職員が立ち会った住民説明会に参加した地元の人は、猫の手術と手術費の負担、その後の猫の餌やりについても同意した。
 問題は移動距離だった。普段、ボランティアらが頼っている豊橋市の動物病院まで車で1時間半以上かかる場所だ。何往復もできないし、猫の体への負担にもなる。獣医が現場に手術室を開設し、捕まえた猫を片端から手術していく方式が採用された。
 手術器具の消毒のため、湯を沸かす設備が必要だ。照明もいる。地元と協議し、公民館を貸してもらうことになった。

 16日午前から、ボランティア10人以上が捕獲器を仕掛け、猫を捕まえ始めた。友好団体などに声をかけて捕獲器約30台をかき集めた。公民館は床にブルーシートや新聞を敷いて、土足で上がっても汚れないようにした。猫が入った捕獲器が届くと、布をかけておく。体重を測り、雌雄を調べて粘着テープに情報を書き、捕獲器に貼る。
 同日午後に獣医の高橋志帆さん(45)と医療スタッフの市川久美子さん(47)が到着した。高橋さんは静岡市駿河区で「とろ犬猫診療所」を運営している。泊まり込みで渥美半島に来た。
 手術室は公民館の廊下をダンボールなどで仕切って開設した。公民館は手術用に手元を照らす照明を貸してくれた。「病院の外での手術は初めて」と高橋さんは話す。手術スペースの外にはカセットコンロが置かれ、手術器具を煮沸消毒していた。
 16日は雄猫を中心に、17~18日は雌猫を中心に手術した。雄は短時間で済むが、雌は1時間前後かかる。麻酔薬を注射された猫が台の上で手術を受ける。執刀する高橋さんも、補助する市川さんも立ちっぱなしだ。手術を終えると、麻酔で寝ている猫を捕獲器に戻し、同じように布をかけて、手術済みのコーナーに運ぶ。雄はそれとわからないが、雌は腹部に包帯が巻かれている。しばらく時間がたつと、麻酔の切れた猫が悲しそうな声で鳴き出す。手術前の猫も不安そうな鳴き声を上げている。16~17日は午後10時まで手術が続いた。18日までに手術できなかった数匹は、豊橋市の動物病院に運ばれた。
 猫は、問題の家だけでなく、少し離れた場所からも運び込まれた。住民説明会や地域猫の回覧板を見て「自分のところも手術してほしい」と個人からの申し込みがあったという。手術費用はハーツが立て替えて払い、分割して返済を受ける。屋内に住んでいるのに人なれしない猫はたもで捕まえてきた。
 観念したようにじっとしている猫もいるが、大暴れして抜け出そうとする猫もいる。栄養状態はおおむね良かったが、けがをしたり、熱を出していたりする猫もいた。
 茶系統は少なく、白黒がほとんど。「同じような顔をしている。皮膚が硬いのも共通している。近親交配で繁殖したのでは」と高橋さんは話した。元々、猫の多い地域だったらしい。ごみ回収コーナーに生きたままの子猫が捨てられているのを見た、と証言する住民もいたという。

 17日には県や市の職員、市議も視察に来た。田原市には、猫の不妊・去勢手術費を補助する制度がない。猫のボランティア団体もない。飼い主のいない猫の増加は、環境問題だ。猫への虐待は、罰則が強化された動物愛護法にも反する。地域住民が、ボランティアのサポートを受け、行政と一体となって取り組むべき課題なのだ。意見交換した職員は「いろいろヒントをいただいた」と話した。
 公民館入り口には寄付金を入れる箱が置いてあった。地域の住民は、飲み物や菓子を差し入れて「ありがとうございます」とお礼を述べていった。野良猫に困っていても、どうすればいいのか分からなかった人がたくさんいたのだ。
 19日に公民館を片付け、手術を終えた猫を元の場所に戻し、ボランティアは撤収した。捕まえたのは59匹にのぼった。中には人なれして、外へ戻すには気の毒な猫もいる。ボランティアが一時保護し、新しい飼い主を探す。問い合わせはハーツの古橋幸子さん(090・6461・0049)へ。
【山田一晶】

田原で猫の「多頭飼育崩壊」

 渥美半島の先端に近い田原市の集落で、猫の「多頭飼育崩壊」が起きた。地域住民と市民団体、市や県が協力し、16~19日に約60匹の猫を捕獲。獣医が現場に臨時手術室を開設し、不妊・去勢手術のうえ、元に戻す地域猫活動に取り組んだ。医師が現地で手術するのは東三河では初の試みだ。関係者は「先進的な取り組みになるのでは」と評価している。

 現場は農業の男性の家。母屋2棟に加え、農作業小屋や温室がある。関係者によると、男性は猫を家の中で飼っていたが約2年に差し押さえを受けて家屋を手放さざるを得なくなった。
 1年の間は家に住むことを許されていたが、やがて本格的に立ち退きを求められた。別の家に身を寄せたが、猫は飼えない。そこで、飼い猫を外へ出し、夜に来て餌を与えていたという。このため、近所にいた飼い主のいない猫も集まるようになり、少なくとも30匹前後にまで増えた。よく起きる家屋内の異常繁殖ではないが、一種の多頭飼育崩壊といえる。
 一方、土地建物を入手した人は、残っていた農機具だけでなく、猫も引き取るように依頼した。このままでは殺処分される懸念も出ていた。
 2月になり、子どもが「猫がいっぱいいる場所」と話しているのを聞いた近所の人が、東三河地方で活動している市民団体「命にやさしいまちづくり ハーツ」のメンバーに相談した。聞き込みをすると、ふん尿被害などで猫たちは嫌われており「毒をまく」などと話す人もいたという。猫はどこかに隠れており、人が餌を置くと集まって食べにきていた。
 間もなく子猫が生まれ始めるシーズンのため、避妊・去勢手術は一刻の余裕もないと判断したハーツは、県動物愛護センター東三河支所、田原市環境課にも相談し、地域猫活動を進めることを決めた。行政は現地を視察した。曲折はあったが、県と市の職員が立ち会った住民説明会に参加した地元の人は、猫の手術と手術費の負担、その後の猫の餌やりについても同意した。
 問題は移動距離だった。普段、ボランティアらが頼っている豊橋市の動物病院まで車で1時間半以上かかる場所だ。何往復もできないし、猫の体への負担にもなる。獣医が現場に手術室を開設し、捕まえた猫を片端から手術していく方式が採用された。
 手術器具の消毒のため、湯を沸かす設備が必要だ。照明もいる。地元と協議し、公民館を貸してもらうことになった。

 16日午前から、ボランティア10人以上が捕獲器を仕掛け、猫を捕まえ始めた。友好団体などに声をかけて捕獲器約30台をかき集めた。公民館は床にブルーシートや新聞を敷いて、土足で上がっても汚れないようにした。猫が入った捕獲器が届くと、布をかけておく。体重を測り、雌雄を調べて粘着テープに情報を書き、捕獲器に貼る。
 同日午後に獣医の高橋志帆さん(45)と医療スタッフの市川久美子さん(47)が到着した。高橋さんは静岡市駿河区で「とろ犬猫診療所」を運営している。泊まり込みで渥美半島に来た。
 手術室は公民館の廊下をダンボールなどで仕切って開設した。公民館は手術用に手元を照らす照明を貸してくれた。「病院の外での手術は初めて」と高橋さんは話す。手術スペースの外にはカセットコンロが置かれ、手術器具を煮沸消毒していた。
 16日は雄猫を中心に、17~18日は雌猫を中心に手術した。雄は短時間で済むが、雌は1時間前後かかる。麻酔薬を注射された猫が台の上で手術を受ける。執刀する高橋さんも、補助する市川さんも立ちっぱなしだ。手術を終えると、麻酔で寝ている猫を捕獲器に戻し、同じように布をかけて、手術済みのコーナーに運ぶ。雄はそれとわからないが、雌は腹部に包帯が巻かれている。しばらく時間がたつと、麻酔の切れた猫が悲しそうな声で鳴き出す。手術前の猫も不安そうな鳴き声を上げている。16~17日は午後10時まで手術が続いた。18日までに手術できなかった数匹は、豊橋市の動物病院に運ばれた。
 猫は、問題の家だけでなく、少し離れた場所からも運び込まれた。住民説明会や地域猫の回覧板を見て「自分のところも手術してほしい」と個人からの申し込みがあったという。手術費用はハーツが立て替えて払い、分割して返済を受ける。屋内に住んでいるのに人なれしない猫はたもで捕まえてきた。
 観念したようにじっとしている猫もいるが、大暴れして抜け出そうとする猫もいる。栄養状態はおおむね良かったが、けがをしたり、熱を出していたりする猫もいた。
 茶系統は少なく、白黒がほとんど。「同じような顔をしている。皮膚が硬いのも共通している。近親交配で繁殖したのでは」と高橋さんは話した。元々、猫の多い地域だったらしい。ごみ回収コーナーに生きたままの子猫が捨てられているのを見た、と証言する住民もいたという。

 17日には県や市の職員、市議も視察に来た。田原市には、猫の不妊・去勢手術費を補助する制度がない。猫のボランティア団体もない。飼い主のいない猫の増加は、環境問題だ。猫への虐待は、罰則が強化された動物愛護法にも反する。地域住民が、ボランティアのサポートを受け、行政と一体となって取り組むべき課題なのだ。意見交換した職員は「いろいろヒントをいただいた」と話した。
 公民館入り口には寄付金を入れる箱が置いてあった。地域の住民は、飲み物や菓子を差し入れて「ありがとうございます」とお礼を述べていった。野良猫に困っていても、どうすればいいのか分からなかった人がたくさんいたのだ。
 19日に公民館を片付け、手術を終えた猫を元の場所に戻し、ボランティアは撤収した。捕まえたのは59匹にのぼった。中には人なれして、外へ戻すには気の毒な猫もいる。ボランティアが一時保護し、新しい飼い主を探す。問い合わせはハーツの古橋幸子さん(090・6461・0049)へ。
【山田一晶】

農家にいた猫。餌を出すとどこからか集まってくる=2月(提供)
農家にいた猫。餌を出すとどこからか集まってくる=2月(提供)
公民館に設けられた手術室。夜遅くまで執刀が続いた(同)
公民館に設けられた手術室。夜遅くまで執刀が続いた(同)
新しい飼い主を待つ猫(同)
新しい飼い主を待つ猫(同)

カテゴリー:社会・経済

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