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豚コレラ最前線(上)

豚へ摂取される見込みのGPE-ワクチン(提供)
豚へ摂取される見込みのGPE-ワクチン(提供)

今、拡大止めなければ

 豚コレラウイルスが日本列島を飲み込もうとしている。4日、群馬県藤岡市と上野村で野生イノシシ2頭が陽性反応を示した。国は豚へのワクチン接種を実施する「推奨地域」に群馬県も加える方針で、その数は計10県に達した。今何が起こり、今後この国の豚肉はどうなってしまうのか。13万頭の豚が殺傷処分されるまでに至る「パンデミック」の裏側に迫った。

ワクチン接種と衛生管理

 9月13日、埼玉県秩父市で感染が確認されると、1人の大学教授が農水省に呼び出された。豚コレラウイルス研究の権威、迫田義博・北海道大学教授。
 江藤拓農林大臣がたずねた。「ワクチンを打つとしたら、どのワクチンを使うべきとお考えですか」
 迫田氏「安全性を考えてGPE-ワクチンが良いのではないでしょうか」
 江藤氏「同感です」。
 このやり取りから1週間後の20日、国は豚へのワクチン接種を行う方針を発表。24、25、27日と立て続けに迫田氏も委員を務める「牛豚等疾病小委員会」を開き、指針の策定に取り掛かった。同時に国は製薬会社に対し、ワクチンの増産も要請した。
 東愛知新聞記者の取材に迫田氏は証言する。「ワクチンを打つか、衛生レベルを保って清浄国を維持するのか、国は難しい判断を迫られていた」
 「ワクチンを打つと決めてからの国の対応は決して遅くない。今後は、県が人手確保の調整などを迅速に行い、生後30~40日という期間を守って正しくワクチンを打てば、免疫の壁ができてイノシシからウイルスをはね返すことができる」
 しかし、一方で「インフルエンザのワクチンと同じで豚のワクチンもパーフェクトではない。農家はひと安心だが、衛生管理を怠ってはならない」と警笛を鳴らした。国はワクチン接種後であっても、無差別抽出した検査豚に1頭でも陽性が出れば、殺処分を行う方針だ。
 また同氏は、ウイルスを運ぶイノシシについて「豚へのワクチンはあくまで一時的な対処療法。もともとの原因はイノシシの感染。イノシシの捕獲や経口ワクチンの散布など、今の行政の方向は間違っていない。やれることを粛々とやっていくべき。今ここでイノシシによる感染拡大を食い止めることができなければ、今後この国はずっと豚コレラに悩まされる。完全な終息までに10年はかかるだろう」と指摘した。
 自民党農林部会長代理を務める根本幸典衆院議員(愛知15区)は、中国で猛威を奮っているアフリカ豚コレラについても懸念を示す。
 「豚コレラのワクチンはあるが、アフリカ豚コレラのワクチンはない。そのためにも農家は今後を見据えて豚舎の衛生管理を徹底しなければならない。そのための費用を国が出すべき」と。
 根本氏は今後の国の対応について「10月中旬までにはワクチン摂取の指針を県に示す」と明かした。
 国はこれ以上、対応の遅れを許されない。イノシシの感染スピードを上回る速さで猪突(ちょとつ)猛進してほしい。
 次回は農家の現状と消費者心理に迫る。
(木村裕貴)

今、拡大止めなければ

 豚コレラウイルスが日本列島を飲み込もうとしている。4日、群馬県藤岡市と上野村で野生イノシシ2頭が陽性反応を示した。国は豚へのワクチン接種を実施する「推奨地域」に群馬県も加える方針で、その数は計10県に達した。今何が起こり、今後この国の豚肉はどうなってしまうのか。13万頭の豚が殺傷処分されるまでに至る「パンデミック」の裏側に迫った。

ワクチン接種と衛生管理

 9月13日、埼玉県秩父市で感染が確認されると、1人の大学教授が農水省に呼び出された。豚コレラウイルス研究の権威、迫田義博・北海道大学教授。
 江藤拓農林大臣がたずねた。「ワクチンを打つとしたら、どのワクチンを使うべきとお考えですか」
 迫田氏「安全性を考えてGPE-ワクチンが良いのではないでしょうか」
 江藤氏「同感です」。
 このやり取りから1週間後の20日、国は豚へのワクチン接種を行う方針を発表。24、25、27日と立て続けに迫田氏も委員を務める「牛豚等疾病小委員会」を開き、指針の策定に取り掛かった。同時に国は製薬会社に対し、ワクチンの増産も要請した。
 東愛知新聞記者の取材に迫田氏は証言する。「ワクチンを打つか、衛生レベルを保って清浄国を維持するのか、国は難しい判断を迫られていた」
 「ワクチンを打つと決めてからの国の対応は決して遅くない。今後は、県が人手確保の調整などを迅速に行い、生後30~40日という期間を守って正しくワクチンを打てば、免疫の壁ができてイノシシからウイルスをはね返すことができる」
 しかし、一方で「インフルエンザのワクチンと同じで豚のワクチンもパーフェクトではない。農家はひと安心だが、衛生管理を怠ってはならない」と警笛を鳴らした。国はワクチン接種後であっても、無差別抽出した検査豚に1頭でも陽性が出れば、殺処分を行う方針だ。
 また同氏は、ウイルスを運ぶイノシシについて「豚へのワクチンはあくまで一時的な対処療法。もともとの原因はイノシシの感染。イノシシの捕獲や経口ワクチンの散布など、今の行政の方向は間違っていない。やれることを粛々とやっていくべき。今ここでイノシシによる感染拡大を食い止めることができなければ、今後この国はずっと豚コレラに悩まされる。完全な終息までに10年はかかるだろう」と指摘した。
 自民党農林部会長代理を務める根本幸典衆院議員(愛知15区)は、中国で猛威を奮っているアフリカ豚コレラについても懸念を示す。
 「豚コレラのワクチンはあるが、アフリカ豚コレラのワクチンはない。そのためにも農家は今後を見据えて豚舎の衛生管理を徹底しなければならない。そのための費用を国が出すべき」と。
 根本氏は今後の国の対応について「10月中旬までにはワクチン摂取の指針を県に示す」と明かした。
 国はこれ以上、対応の遅れを許されない。イノシシの感染スピードを上回る速さで猪突(ちょとつ)猛進してほしい。
 次回は農家の現状と消費者心理に迫る。
(木村裕貴)

豚へ摂取される見込みのGPE-ワクチン(提供)
豚へ摂取される見込みのGPE-ワクチン(提供)

カテゴリー:社会・経済

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