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豊川の山本製作所 マスク掛け「しっぽ貸し手」が大ヒット

マスク掛け「しっぽ貸し手」
マスク掛け「しっぽ貸し手」
社長の田中さん
社長の田中さん
工場に来る野良猫。遠くから様子を窺っていた(提供)
工場に来る野良猫。遠くから様子を窺っていた(提供)

新型コロナウイルス対策の「新しい生活様式」で、人々のマスク姿が定着した。ただ、食事をしたり、「3密」にない空間でマスクを外したりする時、皆さんはどうしているだろう。あごにかける? そのまま机に置く? 豊川市宿町の「山本製作所有限会社」は5月、それを解決するアイテム「しっぽ貸し手」を発売した。猫の姿をしている。税別1個2800円(発売当初の特別価格)という値段にもかかわらず、ネット販売ですでに3000個以上を売り上げた。開発のきっかけ、成功のカギを取材した。

 社長は田中倫子さん(34)。看護師資格があり、病院で働いていた。会社の経営者だった父が40代の若さで亡くなり、その跡をついで社長に就任して8年になる。
 通りに会社の看板は出ていない。駐車場は狭い。小さな町工場だ。操業中の機械音が建屋内に響いている。アルバイトを入れて従業員は7人。
 そこから生まれた「しっぽ貸し手」は真ちゅう製のマスク掛けだ。黄色みを帯びた光沢がある。長さ9㌢、幅5㌢、厚さ5㍉。重さは100㌘。丸みのあるデザインで、削り出し後はすべて、手作業で仕上げている。テレビなどでも取り上げられ、大きな反響があった。
 今は通常価格で販売しており、税別3300円(送料別途)。通販サイトで注文しても手元に届くのは8月という人気ぶりだ。
 祖父が創立した会社はもともと、電柱の上部に設置しているボックス内の部品を作っていた。取引先は、電力各社に資材を納入する会社だけ。旋盤で金属を加工し、納品していた。一般の人々が商品を購入することはないBtoB(企業間取り引き)のビジネスだ。かつてはかなりのシェアを誇っていたこともあったという。
 だが、2011年の東日本大震災以降、電力業界の経営転換で、事業は先細りになっていく。仕事が減っていた。社長に就任したばかりの田中さんは考えた。「このままでは会社の未来が見えない」
 そこでまず、取引先の多角化を狙った。持っている技術で何ができるのか。目をつけたのは住宅関係の部品。簡単に言えば、柱と柱をつないだり、プレハブの組み立てに使ったりする大きなネジだ。思い切って設備投資し、金属の立体工作が可能な「マシニングセンター」を導入した。「大決断だった」と振り返る。自らも販路の拡大に走り回った。
 技術面では、まったくの素人。会社経理を勉強しただけだったが「時がたっても変わらない、温もりのあるものづくり」を理念に掲げた。BtoBであることに変わりはないが、納品が当たり前と思う感覚にも嫌悪感があった。
 技術の素人だから第三者的に自社商品を見ることができる。届けた物に愛情を込める。相手にありがとうと言ってもらいたい。技術者では思いつかないようなアピールポイントを武器に取引先との付き合いを続けた結果、最初の数社から50社以上に拡大した。収益面でも電力関係1社だったものが、自動車関係も含め、新規取引先が半分近い売り上げを出すまでに育った。
 そこへ来て、今回のコロナ禍に巻き込まれた。住宅関連、自動車産業など取引先の景気低迷の影響を受けた。せっかく先行きに見通しがついたタイミングで、再度のピンチを迎えていた。
【山田一晶】
(続きは本紙でお楽しみください)

新型コロナウイルス対策の「新しい生活様式」で、人々のマスク姿が定着した。ただ、食事をしたり、「3密」にない空間でマスクを外したりする時、皆さんはどうしているだろう。あごにかける? そのまま机に置く? 豊川市宿町の「山本製作所有限会社」は5月、それを解決するアイテム「しっぽ貸し手」を発売した。猫の姿をしている。税別1個2800円(発売当初の特別価格)という値段にもかかわらず、ネット販売ですでに3000個以上を売り上げた。開発のきっかけ、成功のカギを取材した。

 社長は田中倫子さん(34)。看護師資格があり、病院で働いていた。会社の経営者だった父が40代の若さで亡くなり、その跡をついで社長に就任して8年になる。
 通りに会社の看板は出ていない。駐車場は狭い。小さな町工場だ。操業中の機械音が建屋内に響いている。アルバイトを入れて従業員は7人。
 そこから生まれた「しっぽ貸し手」は真ちゅう製のマスク掛けだ。黄色みを帯びた光沢がある。長さ9㌢、幅5㌢、厚さ5㍉。重さは100㌘。丸みのあるデザインで、削り出し後はすべて、手作業で仕上げている。テレビなどでも取り上げられ、大きな反響があった。
 今は通常価格で販売しており、税別3300円(送料別途)。通販サイトで注文しても手元に届くのは8月という人気ぶりだ。
 祖父が創立した会社はもともと、電柱の上部に設置しているボックス内の部品を作っていた。取引先は、電力各社に資材を納入する会社だけ。旋盤で金属を加工し、納品していた。一般の人々が商品を購入することはないBtoB(企業間取り引き)のビジネスだ。かつてはかなりのシェアを誇っていたこともあったという。
 だが、2011年の東日本大震災以降、電力業界の経営転換で、事業は先細りになっていく。仕事が減っていた。社長に就任したばかりの田中さんは考えた。「このままでは会社の未来が見えない」
 そこでまず、取引先の多角化を狙った。持っている技術で何ができるのか。目をつけたのは住宅関係の部品。簡単に言えば、柱と柱をつないだり、プレハブの組み立てに使ったりする大きなネジだ。思い切って設備投資し、金属の立体工作が可能な「マシニングセンター」を導入した。「大決断だった」と振り返る。自らも販路の拡大に走り回った。
 技術面では、まったくの素人。会社経理を勉強しただけだったが「時がたっても変わらない、温もりのあるものづくり」を理念に掲げた。BtoBであることに変わりはないが、納品が当たり前と思う感覚にも嫌悪感があった。
 技術の素人だから第三者的に自社商品を見ることができる。届けた物に愛情を込める。相手にありがとうと言ってもらいたい。技術者では思いつかないようなアピールポイントを武器に取引先との付き合いを続けた結果、最初の数社から50社以上に拡大した。収益面でも電力関係1社だったものが、自動車関係も含め、新規取引先が半分近い売り上げを出すまでに育った。
 そこへ来て、今回のコロナ禍に巻き込まれた。住宅関連、自動車産業など取引先の景気低迷の影響を受けた。せっかく先行きに見通しがついたタイミングで、再度のピンチを迎えていた。
【山田一晶】
(続きは本紙でお楽しみください)

マスク掛け「しっぽ貸し手」
マスク掛け「しっぽ貸し手」
社長の田中さん
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工場に来る野良猫。遠くから様子を窺っていた(提供)
工場に来る野良猫。遠くから様子を窺っていた(提供)

カテゴリー:社会・経済

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