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豊橋最後の「野鍛治」職人 会社員の白井さん

師匠の松澤さんから教わった「わかし付け」。素材が熱いうちに打ち込む時間との勝負だ=石巻萩平町で
師匠の松澤さんから教わった「わかし付け」。素材が熱いうちに打ち込む時間との勝負だ=石巻萩平町で
依頼で修理した備中ぐわの刃
依頼で修理した備中ぐわの刃
活動中を見計らって依頼に訪れる常連客
活動中を見計らって依頼に訪れる常連客

 東三河ではかつて、鉄製の農漁具などを加工修理する「野鍛治」が盛んだった。安価な量産品や後継者不足で多くの専門事業所が消える中、豊橋市内では趣味が高じて本職に弟子入りした会社員が生き残りとして活動する。造船会社員の白井宏明さん(54)は、亡き師匠の鉄工所跡を借りて顔なじみの注文に応じながら技能を受け継ぐ。

 白井さんは現在、石巻萩平町の鉄工所跡を活動拠点にしている。師匠の松澤猪市さんが生前営んでいたが今は使われていない。工場には鉄や鋼を熱する炉など、設備や資材倉庫が当時のまま残されている。遺族が好意で白井さんに貸し、不定期だが休日に利用しているという。
 鍛治仕事との出合いは12年前。ナイフ作りに関心を持った頃からだ。野鍛治が盛んで刃物のまちでも知られる福井県武生市で開かれた教室に泊まり込みで通った。受講生の中には現地の鉄工所などに転職した職人もいるという。
 同じ時期の2009年に白井さんは、自宅から近い松澤さんの鉄工所も訪ねている。鍛治打ちの仕事を見学するためだったという。松澤さんは市の「とよはしの匠」に選ばれるほどの野鍛治職人だった。それ以降、月2回ほど松澤さんの元で仕事を手伝いながらの修業が始まった。
 農具などは刃先が経年ですり減る。地金がしっかりしていれば、刃先の素材を継ぎ足し加工すれば何度も使える。
 松澤さんからは農具の刃先修理に用いる「わかし付け」という技術を学んだ。くわの刃先に熱した長さ約10㌢の鋼を取り付ける。1000度以上に熱すると接合部はオレンジ色になり、鍛治台に乗せてハンマーでたたいて延ばす。
 「まさに『鉄は熱いうちに打て』の言葉そのもの。師匠から常々、鍛治打ちは時間との勝負だと教えられた」と白井さんは振り返る。
 現在は松澤さん時代の顧客も一部引き継いでいるという。松澤さんの元には東三河一円から農具が持ち込まれていた。今は休日限定の「不定期営業」のため、依頼主は工場前で活動しているかを確かめる。間伐用のなたを依頼したいという男性高齢者も「いる時に頼まないと。次はいつ会えるか分からないからね」と喜んだ。
 担い手がいない現状に白井さんは「まだ趣味の延長。細々でも火を絶やさないよう、腕も磨きたい。同世代や若い仲間も増やせたら」と決意を新たにした。
【加藤広宣】

 東三河ではかつて、鉄製の農漁具などを加工修理する「野鍛治」が盛んだった。安価な量産品や後継者不足で多くの専門事業所が消える中、豊橋市内では趣味が高じて本職に弟子入りした会社員が生き残りとして活動する。造船会社員の白井宏明さん(54)は、亡き師匠の鉄工所跡を借りて顔なじみの注文に応じながら技能を受け継ぐ。

 白井さんは現在、石巻萩平町の鉄工所跡を活動拠点にしている。師匠の松澤猪市さんが生前営んでいたが今は使われていない。工場には鉄や鋼を熱する炉など、設備や資材倉庫が当時のまま残されている。遺族が好意で白井さんに貸し、不定期だが休日に利用しているという。
 鍛治仕事との出合いは12年前。ナイフ作りに関心を持った頃からだ。野鍛治が盛んで刃物のまちでも知られる福井県武生市で開かれた教室に泊まり込みで通った。受講生の中には現地の鉄工所などに転職した職人もいるという。
 同じ時期の2009年に白井さんは、自宅から近い松澤さんの鉄工所も訪ねている。鍛治打ちの仕事を見学するためだったという。松澤さんは市の「とよはしの匠」に選ばれるほどの野鍛治職人だった。それ以降、月2回ほど松澤さんの元で仕事を手伝いながらの修業が始まった。
 農具などは刃先が経年ですり減る。地金がしっかりしていれば、刃先の素材を継ぎ足し加工すれば何度も使える。
 松澤さんからは農具の刃先修理に用いる「わかし付け」という技術を学んだ。くわの刃先に熱した長さ約10㌢の鋼を取り付ける。1000度以上に熱すると接合部はオレンジ色になり、鍛治台に乗せてハンマーでたたいて延ばす。
 「まさに『鉄は熱いうちに打て』の言葉そのもの。師匠から常々、鍛治打ちは時間との勝負だと教えられた」と白井さんは振り返る。
 現在は松澤さん時代の顧客も一部引き継いでいるという。松澤さんの元には東三河一円から農具が持ち込まれていた。今は休日限定の「不定期営業」のため、依頼主は工場前で活動しているかを確かめる。間伐用のなたを依頼したいという男性高齢者も「いる時に頼まないと。次はいつ会えるか分からないからね」と喜んだ。
 担い手がいない現状に白井さんは「まだ趣味の延長。細々でも火を絶やさないよう、腕も磨きたい。同世代や若い仲間も増やせたら」と決意を新たにした。
【加藤広宣】

師匠の松澤さんから教わった「わかし付け」。素材が熱いうちに打ち込む時間との勝負だ=石巻萩平町で
師匠の松澤さんから教わった「わかし付け」。素材が熱いうちに打ち込む時間との勝負だ=石巻萩平町で
依頼で修理した備中ぐわの刃
依頼で修理した備中ぐわの刃
活動中を見計らって依頼に訪れる常連客
活動中を見計らって依頼に訪れる常連客

カテゴリー:社会・経済

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